上肢切断者に対する義手の操作向上のためのConstraint-induced movement therapy
抄録
Constraint-induced movement therapy(CI療法)は脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチである.しかしながら,近年は多くの病態に応用されている.本稿では,上肢切断患者の義手の操作能力と使用行動変化のためのCI療法の取り組みについて紹介する.
上肢切断患者の背景
上肢切断の多くは,後天的な外傷事故など,外部要因によって生じることが多い.なんらかの原因によって,上肢の切断を余儀なくされた対象者のQuality of lifeの転機を改善するために,機能範囲を拡大した様々な義手が開発されている.近年では,事前にプログラムすることで複数の手の構えを備えた動作パターン(手首の屈曲や伸展)を使用できる機器なども登場しており1),その機能は飛躍的に向上している.しかしながら,ユーザーに対するアンケートでは,71.4%の患者がそれらの義手の使用に困難が伴うと答えており2),未だに多くの障壁があると言われている.
他の研究においても,240名の上肢切断を実施された患者を対象にした研究でも,「補装具の装着」,「医療提供者のフォローアップ」,「義手の修理」,「義手のトレーニング」,「利用できる情報」、といった患者の不満が示されており,これらが義手の永続使用の大きな阻害因子になっているとも考えられている3).実際に,上肢切断を実施された約20-38%の患者は,処方された義手を放棄しているとの報告もある3), 4).これらの報告から,義手の使用は,本来の目的である「上肢の切断を余儀なくされた対象者のQuality of lifeの転機を改善」を果たせていない現状がある.
新しいソリューションとしてのConstraint-induced movement therapy療法
上記の問題を解決すべく,様々なアプローチが今日までなされてきた.ただし,現状では,明確な成果を残せていない.現在,検証が進められていないタイプのアプローチ方法に,健側上肢を拘束し,麻痺手(切断患者の場合は,義手となる)に対する集中練習を行うConstraint-induced movement therapy(CI療法)があり,これらについては実施する可能性があると一部の識者が考え始めた.
上肢切断患者に対するCI療法の実際
McEnerney Edomondsonら5)は,探索的な2症例に対するケースシリーズにて,上肢切断を行なった対象者に対し,CI療法を行ない,前向きの前後比較研究を行なっている.対象者は,標準的なクリニックにおける外来診療にて,作業療法士からCI療法を提供された.アプローチは,1週間に2~4日,1日1時間の義手を用いた練習を受けた.加えて,その間,自宅においても週5日,1日3時間の間,健側上肢に対する拘束を実施し,義手の強制使用を遂行した.なお,練習期間は3週間と設定されている.介入に用いた課題は,ShapingやTask practiceといった明確な区分はなく,一般的な義手のトレーニングに使用される課題が使用されている.さらに,明確なTransfer packageなどの練習によって向上した義手の技能を実生活に転移するための行動学的戦略は行われていないが,健側上肢にミットを着用した時間の記録と,実生活における麻痺手の使用場面,頻度,使いやすさに対する質問票を用いた自己評価といったモニタリングの向上目的のアプローチは実施されていた.
使用されたアウトカム
実生活における義手の使用量について,The activity measure for amputees(AM-ULA)を利用した.この評価は,18項目実動作の活動評価であり,Tシャツの着脱,靴紐結び等の項目から構成されている.妥当性,信頼性も実証がなされている評価である6).
次に,Disabilities for the arm, shoulder, and hand(DASH)という30項目の自己報告式質問紙を用いて,日常の一般的な作業に対する困難度を測定している.この評価は,痛み,しびれ,脱力感,睡眠,自己効力感などに対する質問も含まれており,各項目を0%~100%の主観で点数化する評価である7).
最後に,心理社会的適応,活動制限,および満足度に関する自己報告式の質問紙であるTrinity Amputation and prosthesis experience scales-revised(TAPES-R)を用いている8).
切断患者に対するCI療法の可能性
現在,かなり小規模なケースシリーズの結果ではあるが,2症例ともにAM-ULAで大きな改善が示されたことから,義手の使用頻度の増加に関して,CI療法は良好な結果をもたらす可能性がある.また,この2症例に検討において,特筆すべき点は,CI療法のプロトコルに対して,2事例ともに中等度以上のコンプライアンスを示していおり,ストレス等の問題点が生じなかった点が挙げられる.ただし,2事例であること,介入の前後比較のみでの検討であることから,従来法に比べた効果があるかどうかについては,限界や不明な点が多い.今後,より公衆衛生学的な観点で正確性の高い検討が必要となる.しかしながら,新たな取り組みとしては,非常に新しく,CI療法の可能性を開く,興味深い分野であると思われた.
謝辞
本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの須藤淳氏,嶋田隆一氏,長岡嵩氏,高瀬駿氏に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。
参照文献
引用文献
1、Salminger S, et al: Attachment of upper arm protheses with a subcutaneous osseointegrated implant in transhumeral amputees. Prosthet Orthot Int 42: 93-100, 2018
2、Resnik L, et al: Advanced upper lomb prosthetic devices: implications for upper limb prosthetic rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 93: 710-717, 2012
3、Biddiss E, et al: Upper-limb prosthetics: critical factors in device adandonment. Am J Phys Med Rehabil 86: 977-987, 2007
4、Wright TW, et al: Prosthetic usage in major upper extremity amputations. J Hand Surg 20: 619-622, 1995
5、McEnerney Edomondson AE, et al: Modified constraint-induced movement therapy for persons with unilateral upper extremity amputation: A case report. J Hand Ther pii: S0894-1130(18)30224-2 [epub ahead of print], 2018
6、Resnik L, et al: Development and evaluation of the activities measure for upper limb amputees. Arch Phys Med rehabil 94: 488-494, 2013
7、Resnik L, et al: Systematic review of measures of impairment and activity limitation for persons with upper limb trauma and amputation, Arch Phys Med Rehabil 98: 1863-1892. e14, 2017
8、Desmond DMP, et al: Factor structure of the trinitiy amputation and prosthesis experience scales (TAPES) with individuals with acquired upper limb amputation. Am J Phys Med Rehabil 84: 506-513, 2005