脊髄損傷における上肢機能障害に対する予後予測について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 運動器疾患
リハデミー編集部
2022.06.27
リハデミー編集部
2022.06.27

<抄録>

 脊髄損傷は,中枢神経である脊髄を損傷することで,四肢,体幹等の完全または不完全麻痺を来す障害である.わが国においても,年間5000例ほどが罹患しており,ヒトのQOLを低下させる病態である.本コラムにおいては,脊髄損傷における上肢機能の予後予測について,先行研究の知見をもとに解説を行う.


 脊髄損傷の予後予測については,歴史的には発症から1ヶ月後の実施が,回復予測基準であった1, 2.しかしながら,近年ではかなり早期からリハビリテーション関連職種が脊髄損傷患者に関わることから,より早期に関する検討も増えてきている.

 Burnsら3は,101名の対象者に対し,受傷後2日いないと1年後の両時点における麻痺の予後予測について,完全損傷(American Spinal Injury Association [ASIA] impairment scale[AIS]におけるA)から不完全麻痺損傷(AISにおけるB)に対する転換率が6.2%程度あった(ただし,AISがAからC(運動不完全麻痺:非実用的), D(運動不完全麻痺:実用的)に移行した事例はなかった).これらの転換を遂げた症例の多くが,人工呼吸器装着,中毒,鎮静の実施,四肢の動きにくさ(頭部外傷による麻痺,精神疾患,言語障害,激痛,脳性麻痺)と言った要因を有していた.これらの要因を有す全患者の17.4%が1年後にAIS AからASIA Bに移行し, 13%が1年後以降になんらかのAIS CもしくはDに回復した(これらの要因を有していない患者は,1年後に2.6%,1年後以降で6.7%が,AISがAからBに移行した).

 また,さらに大規模なデータでは,複数の論文4-7のデータをまとめると, AISの返還率は,AIS Aの患者で19.3%,Bの患者にて78.3%,Cの患者にて87.3%,Dの患者にて46.5%の確率で,機能改善が認められたと報告している.さらに,損傷部位別の調査では,完全損傷から不完全損傷への転換で最も高い部位は,腰椎損傷(35%),頸椎損傷(25-30%),低位腰椎損傷(17%),高位胸椎損傷(10%)であったと報告している.ただし,不完全損傷の頸髄損傷においては,上肢の機能改善は,下肢に比べて悪いと言った報告もある8.

 Velstraら9は,頸髄損傷者の重症度には不均一性があり,上肢機能とセルフケアの早期予測は困難であると述べたうえで,頸髄損傷者の上肢機能およびセルフケアの転帰を予測するためにGRASSPの有用性を調査した.結果として,対象者61名(56名が外傷性脊髄損傷,5名が非外傷性脊髄損傷)のMMTのトータルスコアと,6か月後・12か月後のアウトカム変数としてGRASSPのサブテストである握力およびセルフケアと比較したところ,相関は非常に優れていた(6か月後の握力:r=0.885,P<0.001,12か月後:r=0.904,P<0.001/セルフケア6か月後:r=0.821,P<0.001,12か月後:r=0.820,P<0.001).また,GRASSPのサブテストである感覚評価(SWM)のトータルスコアと,6か月後・12か月後のアウトカム変数である握力およびセルフケアとの間にも,中程度から良好な相関関係が認められた(6か月後の握力:r=0.651,P<0.001,12か月後:r=0.639,P<0.001/セルフケア6か月後:r=0.781,P<0.001,12か月後:r=0.643,P<0.001).さらにロジスティック回帰分析では,1か月後のMMTトータルスコアに基づいて6か月後と12か月後の握力およびセルフケアの結果を予測したところ特異度72.4~92.1%であり,1か月後のMMT totalスコアの感度は,6か月後と12か月後の2つの転帰に対して81.8~90.9%であったと述べている.

 Luら10は,頸髄損傷後の上肢機能の回復を促進する介入についてのシステマティックレビューを実施している.介入の種類は運動療法,機能的電気刺激,ロボット療法,反復経頭蓋磁気刺激が含まれており,発症からの期間は2.5週~28.5年,練習の期間も2週~9か月とばらつきはあるものの,調査した研究ではおおむね上肢機能や筋力の改善を示していたと報告している.しかしながら,その効果は限定的で詳細が不明な点もあり,また機能改善が図れたとしてもQOLが改善するとは限らないとし,特にロボット療法と反復経頭蓋磁気刺激については追加の研究が必要と述べている.

 上記で示したように,頸髄損傷後の上肢機能の予後は,発症後1年以上の長期間をかけて,徐々に機能改善を示すことが報告されている.特に発症後,予後予測を阻害する因子を有する対象者については,安易な予後予測には注意が必要である.


参照文献

1. Waters RL, et al. Motor and sensory recovery following incomplete tetraplegia. Arch Phys Med Rehabil 75: 306-311, 1994

2. Waters RK, et al Motor and sensory recovery following incomplete paraplegia. Arch Phys Med Rehabil 75: 67-72, 1994

3. Burns A, et al. Patient selection for clinical trials: The reliability of the early spinal cord injury examination. J Neurotrauma 20: 477-482, 2020

4. Zariffa J, et al. Characterization of nurological recovery following traumatic sensorimotor complete thoracic spinal cord injury. Spinal Cord 49: 463-547, 2011

5. Aarabi B, et al. Efficacy of ultra-early(<12 h), early (12-24h), and late (>24-138.5h) surgery with magnetic resonance imaging-confirmed decompression in American Spinal Injury Association impairment scale grades A, B, and C cervical spinal cord injury. J Neurotrauma 2019. https://doi.org/10.1089/neu.2019.6606

6. Kohorasanizadeh M, et al. Neurological recovery following traumatic spinal cord injury: a systematic review and meta-analysis. J Neurosurg Spine 30: 683-699, 2019

7. Penrod LE, et al. Age effect on prognosis for functional recovery in acute, traumatic central cord syndrome. Arch Phys Med Rehabil 71: 963-968, 1990

8. Velstra IM, Bolliger M, Tanadini LG, et al:Prediction and stratification of upper limb function and self—care in acute cervical spinal cord injury with the graded redefined sssessment of strength, sensibility, and prehension(GRASSP). Neurorehabil Neural Repair 28:632—642, 2014

9. 7)Lu X, Battistuzzo CR, Zoghi M, et al:Effects of training on upper limb function after cervical spinal cord injury:a systematic review. Clin Rehabil 29:3—13, 2015


前の記事

著者が語る 生活期の...

次の記事

脳卒中後上肢麻痺に対...

Top