脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムについて
<本コラムの目的>
1. 脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションの歴史を知る
2. 臨床において、毛嫌いせず、多くのプログラムを併用できる
1. 脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムに関する研究について
脳卒中を罹患された多くの対象者の方が、上肢運動障害といった後遺症に悩まされています。脳卒中後に生じる上肢運動障害は、Quality of life(生命の質)を低下させるとも言われており、それらに対する効果的なアプローチ方法の開発はこの20年喫緊の課題と言われ続けています。
そういった背景もあってか、脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションアプローチはここ20年飛躍的な進歩を遂げました。たとえば、脳卒中後の上肢運動障害に関するエビデンスの整理に使われるシステマティックレビューとメタアナリシスに関する論文は、脳卒中後の下肢運動障害に関する論文に関するそれに比べるとここ10年の間に約5倍の発表がなされました。それぐらい圧倒的な量の論文が出版されたわけです。
2. 脳卒中後の上肢運動障害に対して利用されるプログラムに変移について
脳卒中後の上肢運動障害に使用されるアプローチもここ30年で大きな変化があります。たとえば、30年前の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムのメインストリームはボバースコンセプトやProprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)といった神経筋促通術といった徒手的な手技でした。ただし、これらの知識や技術は一子相伝的な要素があり、経験を技術講習等によって伝えるといった伝承方法がとられていました。
一方、1990年ごろからEvidence-based practice(EBP)の考え方(https://twitter.com/rehatech_links/status/1764873177476608479)が徐々に浸透し、脳卒中後のリハビリテーションプログラムに関しても臨床研究によって生み出されたエビデンスを臨床に活かそうといった動きが活発化しました。そういった中で、疫学や公衆衛生学の知識を利用し、大規模かつ正確な研究デザインを用いた臨床研究によって再現性がある程度確保されたリハビリテーションプログラムが台頭していきます。それらの代表格がConstraint-induced movement therapy(CI療法)です。
CI療法が2006年にEXCITE[1]という臨床研究において、おそらく最初の大規模なランダム化比較試験を実施してから、この分野において、エビデンスを検証し、それらを社会実装するような動きが芽生えました。
それと同時期にロボットを用いたリハビリテーションプログラムの開発が続き、末梢の神経筋に対する電気刺激療法、振動刺激、大脳皮質に対する経頭蓋磁気・直流電気刺激等といった物理療法や、メンタルプラクティス、ミラーセラピー、virtual Reality、Brain Machine Interfaceといったイメージに対してテクノロジーを用いたリハビリテーションプログラムが開発・臨床研究による研修がなされています。
3. まとめ
この30年で臨床において用いるリハビリテーションプログラムがこれほど目覚ましく変化があった領域は類を見ないと思います。したがって、臨床現場において、それぞれの手法に適応する必要がある療法士はとても大変だったと思います。また、今後、この領域に関わる療法士の皆さんもおそらく多くのことを学ぶ必要があると思います。今後、このシリーズでは、上記に挙げた、CI療法、ロボットを用いたリハビリテーションプログラムの開発が続き、末梢の神経筋に対する電気刺激療法、振動刺激、大脳皮質に対する経頭蓋磁気・直流電気刺激等といった物理療法や、メンタルプラクティス、ミラーセラピー、virtual Reality、Brain Machine Interfaceといったイメージに対してテクノロジーを用いたリハビリテーションプログラムについて、エビデンスや実際の方法等に関してまとめてようと思います。まずは、それぞれのアプローチを知ることから始めることが重要だと思います。
参照文献
1. Wolf, Steven L., et al. "Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: the EXCITE randomized clinical trial." Jama 296.17 (2006): 2095-2104.