安静時機能的結合から見る脳卒中後に生じる上肢麻痺に関わる予後予測因子について(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.02.06
リハデミー編集部
2023.02.06

<抄録>

 安静時機能的結合とは,Magnetic Resonance Imaging (MRI)による分析や近赤外分光法(functional Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いた分析まで幅広く実施されている.例えば,安静時機能結合MRIでは,安静時に生じる自発脳活動の相関を指標とし,脳機能結合の状態をそのまま,包括的に評価するためのMRIに関する分析技術である.また,それらに加えて,時間的に創刊する安静時のBlood-oxygenation level-dependent(BOLD)信号の変動を示す脳領域のセットについては,安静時機能結合ネットワークと呼ばれる.これらの手法は認知症領域で発達しており,安静時機能的結合ネットワークとして有名なデフォルトネットワークは,認知症の早期診断等に利用されることもある.近年,ニューロリハビリテーションにおいても,改善因子の研究や予後予測研究において,安静時機能的結合による分析が用いられることがある.本コラムにおいては2回にわたり,安静時機能的結合を用いた脳卒中後の上肢運動障害の改善因子や予後予測研究の今について解説を行う.第一回は,安静時機能的結合の分析技術について,MRI研究を中心に解説を行う。

1.安静時機能結合Magnetic Resonance Imaging (MRI)について

 Biswalらは,安静時に運動関連脳領域内に存在するBlood-oxygenation level-dependent(BOLD)信号の変動が,運動関連ネットワーク内の遠隔領域(例えば,左右の運動野や補足運動野の間に生じるネットワークが時系列的に相関していることを発見した.この研究が,Magnetic Resonance Imaging (MRI)に関する分析における安静時機能結合(resting-state functional connectivity)の発端と言われている.これらに加えて,MRIとは異なるが,ポジトロン断層像(Positron Emission Tomography:PET)検査において,Raichleらは,脳の酸素接種率の解析から,認知負荷の高いさまざまな課題を実施している際よりも,むしろ安静にしている時の方が,神経活動が高まる領域が存在することを発見した.これらの領域は,安静時に脳血流や大脳皮質による糖の代謝が最も高い領域と一致したことから,課題等で負荷がかかっていない,安静時の脳,つまりデフォルト状態の際の大脳におけるそれぞれの領域のネットワークの繋がりの強さを示す『デフォルトモードネットワーク(Default mode network: DMN)の概念が示された.

 その後,Greiciusら3の研究で、MRIによる安静時機能結合を用いてデフォルトモードネットワークが再現できることがわかり,PETではなくMRIにおいて比較的簡便にデフォルトモードネットワークを評価できることが明らかとなった.さらに,MRIを用いたデフォルトモードネットワークの研究において,初期認知症患者における異常性が発見された4ことから,安静時機能結合に関する研究が非常に多くなされるようになった.

 さて,では従来のfunctional MRI等にくらべ,安静時機能結合MRIはどのような利点があるのだろうか.例えば,脳卒中後の上肢運動障害に関わる回復メカニズムをfunctional MRIを用いて確認する際,介入の前後において同様の課題をMRI内で実施する必要がある.しかしながら,安静時機能結合MRIは介入の前後で必要な感覚刺激の提示や反応記録,さらには分析が必要なメカニズムに応じた課題設計やプログラミングの必要がなくなる.さらに,厳密なfunctional MRI時に用いる課題の再現性等が結果に与える影響も関係なくなる点が非常に大きな利点として挙げられる.また,安静時のMRIを時系列的に撮像するだけで,介入の前後の関連領野のメカニズムが明らかになることもあり,簡便にそれらの検討を行うことができる点も利点として挙げられる.

まとめ

 functional MRI等,脳科学研究において,メカニズム解析を実施する際に有用であった手法に加えて,近年安静時結合を用いた画像解析技術が発展している.この技術は,MRIをはじめ,PET,fNIRS,さらには脳波等でも利用することが可能とされている.従来の研究分野では,認知症に関する研究領域での利用が盛んであったが,近年においては,これらの技術を脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションの効果におけるメカニズムの分析に応用する動きが出ている.第二回のコラムにおいては,脳卒中後の運動障害に対する安静時結合を用いた評価がどのような研究の中で用いられ,どういった結果を示しているかについて,論述していこうと考えている.


参照文献

1.Biswal B, et al. Functional connectivity in the motor cortex of resting human brain using echo-planar MRI. Magn Reson Med 34: 537-541, 1995

2.Raichle ME, et al. A default mode of brain function. Proc Natl Acad Sci USA 98: 676-682, 2001

3.Greciius MD, et al. Functional connectivity in the resting brain: A network analysis of the default mode hypothesis. Pric Natl Acad Sci USA 100: 253-258, 2003

4.Grecius MD, et al. Default-mode network activity distinguishes Alzheimer’s disease from healthy aging: Evidence from functional MRI. Proc Natl Acad Sci USA101: 4637-4642, 2004


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