安静時機能的結合から見る脳卒中後に生じる上肢麻痺に関わる研究について(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.02.10
リハデミー編集部
2023.02.10

<抄録>

 安静時機能結合とは,Magnetic Resonance Imaging (MRI)による分析や近赤外分光法(functional Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いた分析まで幅広く実施されている.例えば,安静時機能結合MRIでは,安静時に生じる自発脳活動の相関を指標とし,脳機能結合の状態をそのまま,包括的に評価するためのMRIに関する分析技術である.また,それらに加えて,時間的に創刊する安静時のBlood-oxygenation level-dependent(BOLD)信号の変動を示す脳領域のセットについては,安静時機能結合ネットワークと呼ばれる.これらの手法は認知症領域で発達しており,安静時機能的結合ネットワークとして有名なデフォルトネットワークは,認知症の早期診断等に利用されることもある.近年,ニューロリハビリテーションにおいても,改善因子の研究や予後予測研究において,安静時機能的結合による分析が用いられることがある.本コラムにおいては2回にわたり,安静時機能的結合を用いた脳卒中後の上肢運動障害の改善因子や予後予測研究の今について解説を行う.第二回は,さまざまな検査方法で導き出された安静時機能的結合を用いた脳卒中後の上肢運動障害に関する研究を複数紹介する.

1.安静時機能的結合から見る脳卒中後に生じる上肢麻痺に関わる研究について

 安静時機能結合(Resting state functional connectivity)は当初認知症の初期新台において用いられていた.しかしながら,その簡易性と有用性が評価され,近年では様々な分野において使用されている.

そういった流れの中で,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するアプローチの回復メカニズムの検証においても,安静時機能結合を用いた研究が増えている.以下に近年実施された研究をいくつか紹介していこうと考えている.

 まずは,Salehら1の研究を示す.彼らは,脳卒中後に上肢運動障害を有する生活期の対象者2名に対して,2週間のバーチャルリアリティ技術とロボット技術を有するアプローチを実施し,その結果脳活動がどのように変化するかについて,MRIを用いた安静時機能結合を用いた分析を実施している.これらの介入の結果,Wolf Motor Function Test,Jobsen Test of Hand Function,は両者ともに改善を示した.それに加え,一次運動野と対側の一次運動の間の安静時機能結合においては,一症例目は減少し,二症例目は増加したと報告した.ただし,これらの動きは,functional MRIにて探索された課題関連機能結合と全く同じ傾向を示しており,この結果から安静時機能結合が脳卒中後の上肢運動障害に対するアプローチのメカニズム解析として有用な可能性を示唆したと報告している.

 次に,Hordacreらは,1)皮質脊髄路の下降路の残存性に基づいて,脳卒中患者の間で安静時機能結合が異なるかどうか,2)安静時機能結合は慢性期脳卒中患者の上肢にまつわる行動と関連するかどうか,3)半球間に生じる安静時機能結合と上肢にまつわる行動の関係性は,皮質脊髄路の下降路の残存性に依存するか,といった臨床上の疑問を明らかにするために研究を実施している.36名の脳卒中後生活期の対象者に対し,脳波を用いた安静時機能結合を推定し,分析を実施している.結果としては,皮質脊髄路の残存性を評価する運動誘発電位(Motor-evoked potential: MEP)が確認できない対象者に比べ,MEPが確認できた対象者の方が,感覚運動領野における半球間の安静時機能結合は有意に大きいことが確認された.さらに,安静時機能結合は慢性期脳卒中患者の上肢にまつわる行動との間に中等度の関連性があることも示唆された.この結果から脳波を用いたβ安静時機能結合は,上肢の機能改善のメカニズム解析において,一定の可能性が示唆されたと考えられている.

 最後にSuiら3は近赤外光法(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS)を用いた安静時機能結合と上肢の運動障害を示すアウトカムであるFugl-Meyer Assessmentの関連性を確認することを目的に研究を実施している.この結果,FMAの結果と同側背外側前頭前野と同側の一次運動野の安静時機能的結合の間に有意な中等度の相関を認めた.さらに,FMAの結果と同側背外側前頭前野と対側の一次運動野,同側背外側前頭前野と同側中間前頭前野,同側背外側前頭前野と対側背外側前頭前野の間の安静時機能結合と有意な軽微な関連性を認めたと報告している.

まとめ

 本コラムにおいては,脳卒中後の上肢運動障害の状況とそれに伴う安静時機能結合を用いた研究について紹介を行った.複数の研究を鑑みると,安静時機能結合を作成する検査媒体も異なり,その結果で用いる指標も異なっている.従って,一定の結果が認められているとは言えない.今後,さらに研究が進むことを期待し,それらの動向を注視していきたい.


参照文献

1.Saleh S, et al. Resting state functional connectivity and task-related effective connectivity changes after upper extremity rehabilitation: a pilot study. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc 2012: 4559-4562, 2012

2.Hordacre B, et al. Resting state functional connectivity is associated with motor pathway integrity and upper-limb behavior in chronic stroke. Neurorehabil Neural Repair 34: 547-557, 2020

3.Sui Y, et al. Resting-state functional connectivity for determining outcomes in upper extremity function after stroke: A functional near-infrared spectroscopy study. Front Neurol 13: 965856, 2022

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