脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.02.13
リハデミー編集部
2023.02.13

<抄録>

 上肢運動障害は,脳卒中後に高頻度で見られる障害の一つであり,対象者のQuality of life(QOL)を低下させる要因の一つである.現在,様々なアプローチが開発されている中で,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)というものが存在する.このアプローチは非侵襲的なアプローチ方法で,幅広い対象者が利用できる方法の一つである.この方法は,神経可塑性を高め,機能回復や運動学習をより効率的にする方法とされている.本コラムにおいては,これらの方法関する現状の研究について,2回にわたり解説を行なっていく.第一回はENTF therapyの対象となる対象者が,どのような背景のもと,中枢神経の回復を生み出すのか,そして,それらの回復をENTF therapyがどのように促進するのかについて,解説を行う.

脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)の対象となる対象者の背景について

 脳卒中は,世界の成人が有する障害の主要な原因の一つと考えられている.近年,医学的治療の発達により,血管内治療等による早期の再灌流により,機能予後は徐々に改善するようになってはいるものの,それらが実施できる患者は全体の中でもごく一部にとどまっている.さらに,これら医学的治療の発達により,脳卒中自体が死因になることは大きく軽減しているものの,その後の身体的な障害を有する例は以前よりも増加していると考えられている.

 急性期における助命に焦点を置く時期が過ぎると,障害を有する対象者に対して,医療,社会的アプローチとして,リハビリテーションが重要視される時期がおとづれる.近年,多くの臨床研究が実施されており,効果のエビデンスも確立されつつある.それら効果のエビデンスが確立されているアプローチの多くは,脳神経の可塑性変化をメカニズムに持つものが多い.それらの代表例として,対象者の持つ意味のある活動を含む練習を反復して実施する課題指向型アプローチがあげられる1.しかしながら,現在の医療とリハビリテーションの現状では,標準的なリハビリテーションが提供されているにもかかわらず,ある一定数の対象者は,生涯にわたって障害や機能低下を抱えたまま,脳卒中発症前の能力レベルに到達できないこともある.その中でも,最も特にクローズアップされている障害の一つが,上肢の運動障害であると報告されている2.

 リハビリテーションに焦点が当たる脳卒中後の亜急性期には,何らかの原因による脳血管障害そのものによる細胞の一次損傷と,その後の虚血や無動に伴う二次損傷の双方に対して,中枢神経系は生存促進物(神経成長因子や抗炎症サイトカイン等)を分泌することで,自己修復と神経再構築を試みるとされ,これらを通じて損傷したネットワークを回復し,運動と認知機能を回復させるためのシナプスを発芽させると基礎研究において示されている3.

 上記のように,生物がそもそも有している中枢神経系の損傷に対する神経可塑性による自然治癒のメカニズムを,より効率的かつ効果的に進めるための手法として,前臨床モデルである動物を用いた基礎研究においては,薬物,電気刺激,環境刺激などの外的要因が影響すると述べられている.例えば,Wardらは,中枢神経系の回復により良い影響を与える因子として,1)運動障害を有する側の上肢に対する反復的な量的課題指向型練習,2)非運動障害側の上肢の過剰使用の抑制,3)非損傷側脳の過剰な活性の抑制(薬物,物理療法を用いた手法による),4)損傷側脳の活動性の促進(薬物,物理療法を用いた手法による)を挙げており,上記の論述をサポートする主張を述べている.

まとめ

 近年,直接中枢神経を刺激する非侵襲の機器が発展しており,多くの臨床において利用されるようになっている.これらの流れは,実施できる一部の病院から,多くの民間病院にまで広がっている印象がある.これらの治療法を扱う際には,まず,中枢神経系の自然回復においてはどのようなことが起こり,それらをこの物理療法機器がどう言ったサポートを促すのかを知る必要がある.本コラムの内容がその一助となれば幸いである


参照文献

1. Veerbeek JM, van Wegen E, van Peppen R, van der Wees PJ, Hendriks E, Rietberg M, et al.. What is the evidence for physical therapy poststroke? A systematic review and meta-analysis. PLoS ONE.(2014) 9:e87987

2. Rosamond W, Flegal K, Furie K, Go A, Greenlund K, Haase N, et al.. Heart disease and stroke statistics-2008 Update: A report from the American heart association statistics committee and stroke statistics subcommittee. Circulation. (2008) 117:e25–146.

3. Cassidy JM, Cramer SC. Spontaneous and therapeutic-induced mechanisms of functional recovery after stroke. Transl Stroke Res. (2017) 8:33–46. 

4. Ward NS, Cohen LG. Mechanisms underlying recovery of motor function after stroke. Arch Neurol. (2004) 61:1844–8.

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