脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.02.17
リハデミー編集部
2023.02.17

<抄録>

 上肢運動障害は,脳卒中後に高頻度で見られる障害の一つであり,対象者のQuality of life(QOL)を低下させる要因の一つである.現在,様々なアプローチが開発されている中で,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)というものが存在する.このアプローチは非侵襲的なアプローチ方法で,幅広い対象者が利用できる方法の一つである.この方法は,神経可塑性を高め,機能回復や運動学習をより効率的にする方法とされている.本コラムにおいては,これらの方法関する現状の研究について,3回にわたり解説を行なっていく.第二回はENTF therapyの種別やその遍歴について,過去の臨床研究等をあげながら,解説を行なっていく.

1.脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)の遍歴について

 非侵襲的脳刺激法(Non-invasive brain stimulation: NIBS)は前臨床モデルである基礎研究や臨床応用前の探索的な臨床研究において,神経可塑性を高める能力を実証し,臨床研究においても身体機能の回復を促進するような結果とエビデンスを示している.ただし,一部の研究においては,NIBSが多くの臨床的な効果を示している反面,同じぐらいの数の研究で,NIBSに対する否定的な結果,エビデンスも認められていることを危惧しており,これにより効果のエビデンスが,ガイドライン等で示せていないと主張しているものもある1.

 さて,NIBS法には様々なものがある.経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS),反復経頭蓋時期刺激(transcranial repetitive magnetic stimulation: rTMS),超低周波,低強度電磁場刺激療法(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)等が存在する.これらの治療法は,多くの臨床試験において,比較的効果を示しているものの(前述のように,効果を示せていない研究も多々存在するのが現状ではある),機器が高額である,これらのアプローチに紐づいた保険診療点数が生じない等の使用実現性に関する要件が厳しく,標準的な治療法として認められるものはまだない(日本における脳卒中治療ガイドラインにおいては,『患者の選択と安全面に注意した上で,反復性系頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激を行うことを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中).』と示されている).

 その中でも,近年,ENTF therapyが注目されている.ENTF therapyは,脳卒中後の上肢運動障害に対するアプローチとして,近年有望視されているNIBSの一つである.ENTF therapyは,前臨床における基礎研究および探索的な臨床研究において,細胞におけるカルシウムシグナル伝達,酸化ストレス,炎症反応といった脳卒中後の細胞レベルにおける回復を阻害する因子の調整において,有効な効果を発揮することが示されている.BenYakir-Blumkinら2は,ラットの大脳皮質の細胞を低強度磁場に7日間暴露した結果,それらを実施しなかった細胞よりもアポトーシス(アポトーシスとは,多細胞生物における個体をより良い状況に保ために引き起こされる現象の一つ.管理・調整された細胞が自滅を指す.元々プログラムされていた既定路線的な細胞の入れ替わりを示唆する反応.ネクローシス[細胞の壊死]とは区別される反応.例えば,抗がん剤や放射線治療にはがん細胞にアポトーシスに誘導する作用があると説明することができる.また,脳梗塞急性期におけるアポトーシスの割合の増加は機能予後の不良につながり,神経障害の重症度と相関しているとも言われている)を起こす細胞の割合が,平均で約57%も低下したことを報告した.また,Cichonらも,脳卒中発症後3-4週の対象者において,ENTF therapyを実施した群と,それらを実施しない群に割り付け,比較検討を行なっている.両群ともに,30分の運動療法,15分の心理療法,神経生理学的検査を60分提供されている.アポトーシス遺伝子の発現レベルを評価するために,BAX,BCL-2,CASP8,TNFα,TP53のmRNAの発言を測定した.その結果,ENTF therapyを実施した群については,BAX,CASP8,TNFα,TP53のmRNAの有意な発言を認め,BCL-2のmRNAに関しては両群間に有意な差を認めなかったと報告している.この結果から,ENTF therapyを実施することによって,脳の可塑性プロセスに関与するシグナル伝達経路の活性が促進される可能性について述べている.

 これらの基礎研究および臨床研究の結果から,ENTF therapyが脳卒中後の上肢運動障害の予後を改善する可能性が示唆されている.

まとめ

 本コラムにおいてはNIBSの種類や,ENTF therapyのメカニズムとそれに関わる基礎研究および臨床研究について解説を行なった.第三回は, ENTF therapyが臨床研究においてどのような効果を示すかについて論述する.



参照文献

1. di Pino G, Pellegrino G, Assenza G, Capone F, Ferreri F, Formica D, et al.. Modulation of brain plasticity in stroke: a novel model for neurorehabilitation. Nat Rev Neurol. (2014) 10:597–608

2. Ben Yakir-Blumkin M, Loboda Y, Schächter L, Finberg JPM. Neuroprotective effect of weak static magnetic fields in primary neuronal cultures. Neuroscience. (2014) 278:313–26.

3. Cichon N, Synowiec E, Miller E, Sliwinski T, Ceremuga M, Saluk-Bijak J, et al.. Effect of rehabilitation with extremely low frequency electromagnetic field on molecular mechanism of apoptosis in post-stroke patients. Brain Sci. (2020)

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