初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.03.13
リハデミー編集部
2023.03.13

<抄録>

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)とは,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの一つであり,多くのランダム化比較試験を通して,効果のエビデンスが確立されている手法である.この手法は開発されてから約40年が経過し,世界においては標準リハビリテーションプログラムにおける選択肢の一つと考えられており,多くのガイドラインの中でも推奨されている.しかしながら,本邦においては,学生教育や新人教育の中でも標準的には取り上げられておらず,国家試験における出題も1題飲みに止まっている.本コラムにおいては,6回に渡りCI療法の概要,歴史,エビデンス等について,簡単に紹介することを目的としている.第一回はCI療法の概要と心理学的理論について,解説を行っていく.

1.Constraint-induced movement therapy(CI療法)の概要

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,1990年代前半に体系的なアプローチとして論文化され,1990年代後半から正確性の高い研究デザインの代表格であるランダム化比較試験を用いた効果検証を多く実施されてきたアプローチである.伝統的なCI療法の対象者は,母指を含む3指のMP関節の10度と手関節の20度の随意伸展が可能な患者が対象とされていた.近年では,他のアプローチとの併用により,より重度の麻痺を有する対象者も含有するようになっている1.

 伝統的なCI療法は,1日5, 6時間の練習を10日間連続で実施するプロトコルを採用していた(近年は1日の練習時間が短い修正CI療法も登場し,効果を示している2.また,練習中は,非麻痺手にミトンや三角巾といった道具を装着し,麻痺手のみを用い,対象者の目標を達成するための練習(課題指向型練習)と生活の大半をその状況で過ごすような手法が用いられてきた.しかしながら,日本の導入の際に,練習場面および日常生活における非麻痺手の拘束は,転倒のリスク等も懸念されるため,麻痺手の集中練習と両手動作練習の併用等おプロトコルの中に含まれた経緯がある3.ただし,2010年以降には複数の研究4,5で非麻痺手の拘束の不要性を示すランダム化比較試験が複数示されたことから,現在は『麻痺手の使用に集中(拘束)する』という意味でConstraint-inducedの解釈がなされている6.

2.CI療法の心理学的理論

 CI療法は,麻痺手によって行う目標設定を行うことにより動機付けを促し,麻痺手を適切な難易度調整がなされた作業課題の中で使用していく,その中で「この課題ができれば,目標を達成できそう」といった予感が生じた際,もしくは目標を達成できた際に,この体験が正の強化となり,麻痺手を練習や生活の中で使用する頻度が向上する.この結果,使用頻度に依存した中枢神経システムの運動関連領域が拡大し(正の可塑性)が生じ,より麻痺手の運動出力が向上することによって,麻痺手の使用が向上する.いわば,学習性不使用を撤廃するような行動を選択していくのである.これは,課題指向型アプローチであるCI療法が、他のアプローチに比べ,実生活における麻痺手の使用行動を促進することからも明らかである.さらに,筆者らは,この反応は生物が行動を学習する際に重要な報酬系に非常に強い関与があると考えている.らは,サルの実験において,報酬となるジュースの刺激の前に,その予測刺激となる光源を提供すると,サルはその光源を確認した際に,ジュースを予測し,ドーパミンを分泌させると報告している7.我々は,CI療法における「この課題ができれば,目標を達成できそう」という予測が麻痺手の報酬依存的に行動変容を促すと考えている.

 このようにCI療法の起源は,心理行動学にあり,開発者も心理学者のEdward Taubということになる.つまり,従来の神経筋促通術といった医師や理学療法士が開発した技術とは,コンセプトの時点から大きく異なることを理解する必要がある.さらに,それらを理解した上で,従来法と併用することで,それぞれの長所と短所を把握し,相互補完していくことが重要である.

まとめ

 本コラムにおいては,CI療法の概要とそのベースとなった心理学的メカニズムについて簡単に解説を行った.CI療法を知る上で,医師や理学療法士といった医学分野の職業の者が開発したボバースコンセプトや神経筋促通術といった従来法と異なり,『行動』に焦点を当てた心理学者が開発したアプローチであることを必ず理解する必要がある.それらに留意した上で、CI療法の特徴を吟味し,実臨床に加える必要がある.


参照文献

1.Uswatte G, et al. Rehabilitation of stroke patients with pkegic hands: Randomized controlled trial of expanded constraint-induced movement therapy. Restor Neurol Neurosci 36: 225-244, 2018

2.Page SJ, et al. What are the “ingredients” of modified constraint-induced therapy? An evidence-based review, recipe, and recommendations. Restor Neurol Neurosci 31: 299-309, 2013

3.Hosomi M, et al. A modified method for constraint-induced movement therapy: a supervised self-training protocol. J Stroke Cerebrovasc Dis 21: 767-775, 2012

4.Bragardh C et al. A 1-year follow up after shortened Constraint-Induced Movement therapy with and With out Mitt Poststroke. Arch Phys Med Rehabil 91:460-464,2010

5.Krawczyk M, et al:Effects of sling and voluntary constraint during constraint-induced movement therapy for the arm after stroke: a randomized, prospective, single-centre, blinded observer rated study. Clin Rehabil 26(11): 990-998, 2012

6.Morris DM, et al: Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. Eura medicophys 42: 257-268, 2006.

7.Schultz, W: Predictive reward signal of dopamine neurons. J Neurophysiol 80: 1-27, 1998


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