初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(2)
<抄録>
Constraint-induced movement therapy(CI療法)とは,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの一つであり,多くのランダム化比較試験を通して,効果のエビデンスが確立されている手法である.この手法は開発されてから約40年が経過し,世界においては標準リハビリテーションプログラムにおける選択肢の一つと考えられており,多くのガイドラインの中でも推奨されている.しかしながら,本邦においては,学生教育や新人教育の中でも標準的には取り上げられておらず,国家試験における出題も1題飲みに止まっている.本コラムにおいては,6回に渡りCI療法の概要,歴史,エビデンス等について,簡単に紹介することを目的としている.第二回はCI療法の発展の歴史等について,解説を行う.
1.Constraint-induced movement therapy(CI療法)の歴史
Constraint-induced movement therapy(CI療法)といえば,ボバースコンセプトや神経筋促通術,認知運動療法といった脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する伝統的なリハビリテーションプログラムに比べると歴史が浅く,新興勢力的な印象を受ける療法士の皆さんも多いかもしれない.また,それら従来のリハビリテーションプログラムに比べると,その発展の仕方も特殊な部分がある.例えば,従来のリハビリテーションプログラムは,開発者が人を対象とした実践の中で,経験ベースに技術や知識の体系を作り上げ,技術に賛同する門下生に手取り足取り相伝していったことに対し,CI療法は動物を用いた基礎研究において示された知見をベースに公衆衛生学に従った疫学的手法を用いて,技術や知識の成熟を図った歴史がある.この点が,それぞれの療法が発展する上で,科学的アプローチの違いと言える点である.さて,それでは以下にCI療法の発展の歴史について,基礎研究が盛んに実施されていた時代から,それらの知識をトランスレーションして行くに至った流れについて記載していく.
その息吹は,1910年代の霊長類を用いた基礎研究に遡る.まず,1917年にOgdenら1)が,1940年にTowerら2)が,1963年にKnappら3)が,錐体路に障害を持ち片側の前肢に麻痺を呈したサルにおいて,非麻痺側の前肢の拘束を行ったところ,作業活動における麻痺側の前肢の使用頻度が増え,上肢機能が向上したと述べている.その後,先人の研究をさらに発展させたのが,アラバマ州バーミンガムにあるアラバマ大学の心理学者で基礎研究者であったEdward Taubら4)もサルに対する行動実験を行っていた.彼は,サルの前肢に連絡を持つ脊髄の後根を片側のみ切断し,サルのその後の行動を観察した.すると,後根を切断されたサルは,切断側の麻痺手を使用せず,非切断側の前肢のみで代償的に生活を行うようになった.この現象を「学習性不使用(learned non use)」と名付け,その治療のためにはどのような手段が適切かについて,探索的に実験を行った.その中で,彼らは先人達と同様に,後根遮断を行っていない麻痺手をミトンなどの拘束具で固定し,使用できないような環境設定を行った.すると,その後からサルは遮断側前肢を使用しはじめた.
一方,この基礎研究の知見を臨床応用する動きが,1980年代に入るとみられてきた.1981年にはOstendorfら5)がいち早く臨床応用を実施する.彼らは脳卒中発症後18か月経過した女性の脳卒中患者を対象に,1週間のアプローチを3つのフェーズ(対照-実験-対照)に分けて実施した.当時はCI療法とは呼ばれておらず,Forced use therapyと呼ばれていた(Forced use thearpyとCI療法は同一のものをささず,CI療法はForced use therapyをより体系化がなされたものを指す).Forced use therapyは,療法士が練習として課題指向型アプローチを提供するものではなく,あくまでも終日(起きている時間全て)非麻痺手をスリングなどで拘束しながら,日常生活を麻痺手のみで過ごす試みである.この報告における介入のアウトカムは,17項目のリストに表記された活動における麻痺手を用いる頻度を観察し,計測した値を用いている.結果は,実験を行った第2フェーズにおいて,活動における麻痺手の使用頻度が向上したことを報告した.続けて,1989年には,ジョージア州アタランタにあるエモリー大学のWolfら6)が25名の慢性期の中等度から軽度の上肢麻痺を呈した脳卒中患者および脳外傷患者を対象に行ったセルフコントロールドスタディにおいて,Forced use therapyを2週間実施し実施した.結果,アウトカムとして使用したWolf motor function testの前身であるFunctional tasksの結果がアプローチ前後,そして1年後までのフォローアップにおいても継続したことを報告した.
その後,Taubら7)によって,学習性不使用やそれを克服するためのアプローチの心理学的な回復理論(初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(1)を参照)が報告され,それを元にTaubら8)が,1993年に現在の礎となるCI療法のプロトコルが開発した(この時点ではまだCI療法という名称は使われていない).
この研究では,2週間の介入期間中,対象者は起きている時間は全て非麻痺手を拘束していた.ここまではForced use therapyと変わりがない.しかし,Taubら8)は,それらに加え,1日6時間の手段的な作業を用いた上肢機能アプローチを実施した.結果,上肢機能は向上し,その結果は2年後まで継続したと報告されている.その後,1990年代後半から2000年代前半にかけて,多くの無作為化比較試験が実施された.
まとめ
本コラムにおいては,CI療法の歴史について記載した.CI療法は,基礎研究から派生したトランスレーショナルリサーチの代表格であったことがわかる.次回,初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(3)では,CI療法の発展と変化について記載する.
参照文献
1.Oden R, et al: On cerebral motor control: the recovery from experimentally produced hemiplegia. Psychobiology 1: 33-49, 1917
2.Tower SS: Pyramidal lesions in the monkey. Brain 63: 36-90, 1940
3.Knapp HD, et al: Movements in monkeys with deafferented forelimbs. Exp Neurol 7: 305-315, 1963
4.Taub E: Somatosensory deafferentation research with monkey implications for rehabilitation medicine in ince LP editor Behavioral Psychology in rehabilitation medicine. Clinicak application Baltimore Williams & Willkins: 371-401, 1980
5.Ostendorf CG, et al: Effrct of forced use of the upper extremity of a hemiplegoc patients on changes in function. Phys ther 1022-1028, 1981
6.Wolf SL, et al: Forced use of hemiplegic upper extremities to reverse the effect of leaned nonuse among chronic stroke and head-injured patients. Experimental Neuroligy 104: 125-132, 1989
7.Taub E, et al: New treatments in neurorehabilitation founded on basic research. Nat Rev Neurosci 3: 228-236, 2002
8.Taub E, et al: Technique to improve chronic motor deficit. Arch Ohys Med Rehabil 74: 347-354, 1993