ランダム化比較試験における盲検化(ブラインド)の位置づけについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.11.11
リハデミー編集部
2022.11.11

<抄録>

 エビデンスレベルが高い研究法において,ランダム化比較試験が有名である.ランダム化比較試験においては,妥当性,信頼性を担保するために,バイアスによる影響を削減する必要がある.その手続きの一つに,盲検化(ブラインド,マスキングと呼ばれることもある)がある.本コラムにおいては,盲検化がランダム化比較試験の結果に与える影響について,簡単に解説,論述を行う.

1. ランダム化比較試験における盲検化の位置づけについて

 臨床試験の結果は,それぞれのランダム化比較試験をはじめとした個別の臨床試験や,それらの結果を用いたシステマティックレビューやメタアナリシスの一部として,エビデンス に基づく臨床実践やガイドライン等を作成する当局による意思決定を支えるものであると考えられている1.しかしながら,ランダム化比較試験には,隔たりのない正確な結果を導き出すための様々な手続きが含まれ,これらが機能していない研究結果については,隔たりがあるものも含まれる可能性があげられている2.

  上記の手続きの中の一つに,介入群と比較対照群において,参加者に提供される介入やケアの違いや参加者の系統的な行動の違い(パフォーマンスバイアス:パフォーマンスを提供する者が研究計画・仮説を知っていた場合,意図的に仮説生成に有利な行動をとってしまう可能性),あるいは結果の評価手続きや人員の違いによる系統的な違い(検出バイアス:評価を実施する者が研究計画・仮説を知っていた場合,意図的に仮説生成に有利な行動をとってしまう可能性)によって,結果に偏りが生まれることがある.

 これらのバイアスを防止するために生まれた方法が, 盲検化(ブラインド, マスキングと呼ばれることもある)といわれるものである.この方法は,患者,介入やケア等を提供する医療者,アウトカムを測定評価する担当者が,この試験に関するデザインや仮説等を認知,理解せず,関与するものの潜在的・顕在的な意図が結果に偏りを生まないことを目的としている.

 盲検化は報告されている多くの試験において,約60%程度の報告において利用されている3.しかし,研究の中で用いられる介入やケアの種類によって,対象者や医療提供者の盲検化が不可能な場合も多々認められる(例えば,心理療法,リハビリテーションに関わる手法は大部分がこれらにあたる).これらの試験に関しては,結果の評価に関する盲検化だけを実施するProspective Randomised Open Blinded–Endpoint(PROBE法)という方法も利用されている.さて,歴史的にはプラセボ対照の介入と盲検化の歴史ついては,ランダム化比較試験の開発初期に非常に多く議論がなされており,1950年ごろから確立された方法論的原則である.

 ランダム化比較試験後のブラインドに関しては,多くの研究において,ブラインド群,非ブラインド群のアウトカムの差について,メタアナリシス内の推定差をメタアナリシス間で結合する,メタ永気学研究によって比較検討がなされている.Schulzらは,二重盲検の欠如について,メタ疫学研究を実施した結果,二重盲検がなされていない試験において,効果の推定値がオッズ比にて,17%程度大きくなることを示した5.一方,Moustgaardらは,メタ疫学研究において,盲検化が与える影響について,調査を行っている.この研究では,盲検化を実施した試験と,非盲検化(または状況が不明な研究)を実施した研究に関して,階層ベイズモデルを用いて平均オッズ比を求めた(平均オッズ比で1より小さい場合に,盲検化がなされていない試験で効果推定量が誇張されていることを示している).その結果,患者報告型のアウトカムを用いた研究においては,患者への盲検化の欠如は平均オッズ比で0.91,盲検観察者によるアウトカムの報告に関する平均オッズ比は0.98であったと報告している.これらのようにメタ疫学研究によって,以上のようなことが示されているものの,最終的には,最終的には研究数が足りず,正確性が不十分だとされている.

 こう言った議論が出てくることで,研究法に対する常識が変わる可能性がある.今後も最新の情報に目を向け,その時代のスタンダードやトレンドを理解することが非常に重要になると思われる.


参照文献

1.Berlin JA, Golub RM. Meta-analysis as evidence: building a better pyramid. JAMA 2014; 312: 603-5.

2.Higgins JPT, Altman DG, Gøtzsche PC, et al., Cochrane Bias Methods Group, Cochrane Statistical Methods Group. The Cochrane Collaboration’s tool for assessing risk of bias in randomised trials. BMJ2011; 343: d5928

3.Chan A-W, Altman DG. Epidemiology and reporting of randomised trials published in PubMed journals. Lancet 2005; 365: 1159-62.

4.Kaptchuk TJ. Intentional ignorance: a history of blind assessment and placebo controls in medicine. Bull Hist Med1998;72:389-433

5.Schulz KF, Chalmers I, Hayes RJ, Altman DG. Empirical evidence of bias. Dimensions of methodological quality associated with estimates of treatment effects in controlled trials. JAMA1995;273:408-12

6.MOUSTGAARD, Helene, et al. Impact of blinding on estimated treatment effects in randomised clinical trials: meta-epidemiological study. bmj, 2020, 368.

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