両手動作練習とConstraint-induced movement therapy(CI療法)を併用について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.10.17
リハデミー編集部
2022.10.17

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,両手動作練習とCI療法がある.これらの療法はともに効果のエビデンスが確立されており,各国のガイドラインなどにおいても推奨されている.しかしながら,両療法ともそれぞれ特徴があり,どちらが優れているかどうかについては,対象者の特徴に依存すると筆者は考えている.本コラムにおいては,両手動作練習と脳卒中後の麻痺手単独に介入するCI療法において,併用の可能性について,論述し,解説を行う.

1.両手動作練習とConstraint-induced movement therapy(CI療法)を併用について

 脳卒中後の上肢麻痺に対して多種多様なアプローチが開発されている.その中でも代表的なものとして,両手動作練習とConstraint-induced movement therapy(CI療法)がある. 

 CI療法は,脳卒中後に生じた麻痺手に対して,難易度調整がなされた集中的な課題指向型を実施し,麻痺手の機能改善と実生活における麻痺手の使用行動の改善を目指すアプローチである.一方,両手動作練習は,CI療法のアンチテーゼとして,開発されたアプローチである.CI療法が麻痺手単独の動作練習を実施することに対して,両手動作練習は麻痺手と非麻痺手による協調的な活動により,実生活における両上肢のパフォーマンスを向上させることを目的にしている1.また,CI療法は,損傷側の麻痺手の運動領域に関わる脳実質の可塑性が生じるとされているが,両手動作練習はそれらに加えて,非損傷側の運動関連領域においても,脳実質の可塑性が生じることが報告されている2.従って,研究者の中では,CI療法よりも両手動作練習の方が優れていると主張するもの3もおり,議論が分かれている部分ではある.

 一方,日本のCI療法については,世界のCI療法と若干事情が異なる.兵庫医科大学にて,開発された際に,『実生活において,麻痺手を使うシチュエーションは,麻痺手を実用手・補助手として利用する両手動作が多い』『拘束自体が転倒等のリスクに関与する可能性がある』『非利き手が麻痺した場合でも,非利き手で日常生活動作の全てを行うストレスが,日本人には合わない可能性がある』と言った意見があり,麻痺手単独の動作と両手動作による練習が併用され,さらに実生活における非麻痺手の拘束もあえて行わず,両手動作における麻痺手の使用行動を促進するような戦略が取られた4.このように,麻痺手単独の集中練習および両手による実際的な練習の双方の特徴をよく吟味した上で,アプローチの戦略を立てる必要がある.

 さて,上記は成人領域における両手動作練習とCI療法について解説をした.しかしながら,小児領域における上肢機能練習に関しては,議論の焦点がまた変わってくる.小児領域における上肢の運動障害に対するリハビリテーションは,脳性麻痺児に対して実施されるケースが非常に多い.脳性麻痺児の場合,麻痺手,非麻痺手の区分が少なく,多くの症例においては,両側に相応の麻痺を有している場合が多い.そう言った場合には,例えば,より重度の麻痺を有する上肢に対してはCI療法を,より軽度の麻痺を有する上肢には両手動作練習を,と言ったように,両療法の併用におけるバランスが非常に重要になる.

 たとえば,両手の麻痺を有する脳性麻痺児に対する探索的なアプローチとして,Palomo-Carrionらの検討がある彼らは,5-8歳の脳性麻痺児10名を1グループとして,それぞれの自宅において80時間の両手動作練習と20時間の修正CI療法を併用するハイブリッド療法を実施した.その結果,10名の対象児が平均77時間の両手動作練習,17時間の修正CI療法を完遂することができ,治療参加に対するコンプライアンスが高いことが示された.さらに,介入の結果,Bimanual Functional Performanceで測定した上肢機能とPediatric quality of life inventory for cerebral palsy で測定したQuality of lifeにおいて100時間後に有意な最大の改善を認めたと報告している.

 これらの結果からも,対象者の両側上肢の特徴に合わせたアプローチ方法の組み合わせが非常に重要になると思われた.臨床にて実施する際も,どちらか一方というよりは,対象者に合わせてプロトコルを変化させることが重要である.



参照文献

1.Summers JJ, et al.: Bilateral and unilateral movement training on upper limb function in chronic stroke patients: a TMS study. J Neurol Sci, 2007, 252: 76–82

2.Stinear JW, et al: Rhythmic bilateral movement training modulates corticomotor excitability and enhances upper limb motricity poststroke: a pilot study. J Clin Neurophysiol, 2004, 21: 124–131

3.Han JK, et al. The effects of bilateral movement training on upper limb function in chronic stroke patients. J Phys Ther Sci, 2016, 28: 2299-2302

4.Hosomi M, et al. A modified method for constraint-induced movement therapy: a supervised self-training protocol. J Stroke Cerebrovasc Dis, 2011, 21: 767-775

5.Palomo-Carrión R, et al. "Feasibility of family-directed home-based bimanual intensive therapy combined with modified constraint induced movement therapy (h-BITmCI) in very low and low bimanual functional level: A brief report." Developmental Neurorehabilitation , 2022, 2022, 1-8.

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