脳卒中患者に対して実施したConstraint-induced movement therapy(CI療法)のメカニズムについて(電気生理学的評価と画像診断の観点から)2
<抄録>
脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する効果的なアプローチ方法の一つとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.これらは,多くの臨床試験において,エビデンスが確立されており,非常に有用な治療法の一つとされている.この効果的なアプローチであるが,効果の要因(回復メカニズム)に関しても,1994年のNudo博士の研究を皮切りに多くの基礎研究を通して,多種多様な検証が行われている.2000年以降は,基礎研究における技術も向上したことにより,電気生理学的評価と画像診断の観点から,明らかにされている.本コラムにおいては,2000年以降の基礎研究を中心に,CI療法による神経機構の回復について,解説を行うことを考えている.
1.脳卒中患者に対して実施したConstraint-induced movement therapy(CI療法)の回復メカニズムについて(電気生理学的評価と画像診断の観点から)
脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する効果的なアプローチ方法の一つとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.これらは,多くの臨床試験において,エビデンスが確立されており,非常に有用な治療法の一つとされている.CI療法の領域における電気生理学的評価を用いた研究のはしりに,1994年のNudo博士の研究がある(1.Nudo博士は,リスザルの大脳皮質の手の運動領域に対して,人為的に脳梗塞を作り,前脚に麻痺を有する実験用のリスザルを作成した.そして,麻痺を有するリスザルの非麻痺手を拘束した上で,麻痺手を使って餌を食べるような実験環境を用意した.麻痺手を利用して餌を補食したリスザルは,その行動の前後において,運動誘発電位(実験で使用された運動誘発電位は,運動野直上の頭蓋骨を外し,大脳皮質に対して直接的に電気刺激を提供し,その電気刺激を与えた際に,反応する末梢運動器を観察した上で,運動野の身体支配領域をマッピングするような方法)を観察した.その結果,麻痺手を強制的に使用したリスザルの運動野における手指、上肢の領域が大きくなったと報告されている.
この実験を皮切りに麻痺手の集中練習の代表格であるCI療法に関して,電気生理学的評価と画像診断の観点から回復メカニズムを探索する動きは非常に活発になったと言える.上記のNudoらの研究からも解るように,電気生理学的および画像診断法による回復メカニズムの探索は,脳卒中後上肢麻痺を有した対象者における回復メカニズムを直感的に示すことができるものである.Jooら(2は,運動誘発電位と体性感覚誘発電位を用いて,脳梗塞ラットのCI療法前後における電気生理学的な回復メカニズムについて,対照群(脳梗塞後何も行動を提供しない群)を設定した上で検討を行なっている.その結果,対照群においては,体性感覚誘発電位の波形が反転・遅延が認められたことに対して,CI療法を実施した群は,減少のみにとどまり,他の負の変化は認めなかった.この結果から,CI療法が局所脳梗塞後の対象者の運動や体性感覚機能の回復を促し,それらの脳神経ネットワークの再構築に寄与する可能性について述べている.
また,運動誘発電位や体性感覚誘発電位に加え,拡散テンソル画像を用いた研究も散見される.Huら(3は,脳卒中ラットのCI療法前後の皮質脊髄路の分数異性と平均拡散係数を拡散テンソル画像によって定量化し,CI療法が損傷脳に関連する皮質脊髄路の神経再構築に関与する可能性について報告している.
上記においては,リスザルやラットが主であったが,臨床研究においてもこれらの手法は利用されている.例えば,Liepertら(4は,慢性きの脳卒中後の患者を対象に,CI療法前後において,局所経頭蓋時期刺激を用いて,両側の上肢に関する皮質運動出力領域のマッピングを行なっている.この研究において,CI療法前後で,損傷側の上司に関する皮質運動出力領域のマッピングは拡大し,非損傷側のマッピングは縮小したと言った結果が述べられている.さらに,脳波および筋電図モニタリングの結果から,CI療法の効果を示したMiltnerら(5の研究においては,CI療法前後において,運動関連皮質電位の変化がCI療法による上肢麻痺の改善と密接な関連性があったことが示されている.さらに,Gaitherら(6は,Voxel Based Morphometoryといった皮質の質量を測る技術を用いて,CI療法における麻痺手の使用行動を促す行動戦略の有無が結果に与える影響を調査した.結果,両側の運動関連領野と海馬において,Transfer packageを実施した群の方が,質量の増加を認めたと報告がなされた.さらに,Brarghら(7は,構造的な白質変化に関する継続的な研究において,CI療法がtract-based spatial statistics(TBSS)において,白質のポジティブな変化を誘発すると報告している.
上記のように,電気生理学的評価と画像診断の観点から多くの事実が解明されており,回復メカニズムの具体的な状況が理解できる.このような回復メカニズムをしっかり理解した上で,眼前の対象者にのぞみ,シミレーション しながらインタラクションすることが臨床においては重要であると思われた.
参照文献
1.Nudo RJ. Plasticity. NeuroRx, 2006, 3.4: 420-427.
2. Joo H. W., Hyun J. K., Kim T. U., Chae S. H., Lee Y. I., Lee S. J. (2012). Influence of constraint-induced movement therapy upon evoked potentials in rats with cerebral infarction. Eur. J. Neurosci. 36 3691–3697.
3. Hu J., Li C., Hua Y., Zhang B., Gao B. Y., Liu P. L., et al. (2019). Constrained-induced movement therapy promotes motor function recovery by enhancing the remodeling of ipsilesional corticospinal tract in rats after stroke. Brain Res.1708 27–35.
4. Liepert J., Bauder H., Wolfgang H. R., Miltner W. H., Taub E., Weiller C. (2000). Treatment-induced cortical reorganization after stroke in humans.Stroke 31 1210–1216.
5. Miltner W., Bauder H., Taub E. J. (2016). Change in movement-related cortical potentials following constraint-induced movement therapy (CIMT) after stroke. Zeitschrift Für Psychol. 224 112–124.
6. Gauthier L. V., Taub E., Perkins C., Ortmann M., Mark V. W., Uswatte G. (2008). Remodeling the brain: plastic structural brain changes produced by different motor therapies after stroke. Stroke 391520–1525.
7. Barghi A., Allendorfer J. B., Taub E., Womble B., Hicks J. M., Uswatte G., et al. (2018). Phase II randomized controlled trial of constraint-induced movement therapy in multiple sclerosis. Part 2: effect on white matter integrity. Neurorehabil. Neural Repair 32 233–241.