脳血管障害を呈した対象者に対するリスク管理について
<抄録>
脳血管障害を呈した対象者に対するリスク管理については,病期を問わず,リハビリテーションを提供するにあたって,基礎となる部分である.生じてしまったインシデント・アクシデントに対しては,早急な対処的行動が必要とされているが,予防的にそれらを抑止できることが望ましい.本コラムにおいては,本邦におけるリスク管理に関するガイドラインを中心に紹介し,一般的な基準等について検討することを目的としている.
1.急性期における離床に関するリスク管理
脳血管障害を罹患した後,急性期のできるだけ早い時期から座位や立位練習といった離床を図る必要がある.これらの早期離床を実施していく際には,意識レベルを確認する必要がある.意識レベルについては,Japan Coma Scaleで1桁であることを確認し,運動を実施していく上で,問題になり得る既往歴や心疾患等の全身合併症がないことを確認することが重要となる.また,急性期においては,最初のリスクも大きく,循環動態の変化も流動的であり,常に神経兆候の増悪については,注意を払う必要がある.それらに問題がないことを確認した上で,可及的早急に離床を進める必要がある.
初期確認を行い,離床を進めたとしても,いつ何時状況が変わるかはわからない.脳血管障害を有した対象者の状況は刻一刻と変わるため,それらに適宜対応する必要がある.離床の過程においては,注視基準を定める必要がある.一般的には,日本リハビリテーション医学会のリハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインの中止基準1が一つの目安となる(表1).また,これらの中止基準は,何も離床の時のみならず,亜急性期,生活期においても継続的に利用できる.
上記に記載した通り,脳血管障害を呈した対象者においては,循環動態に関するリスク管理を徹底する必要がある.起立性低血圧や自律神経過反射等により,予期せずに循環動態が乱れる際は,練習を中止するといった対処療法にて対応するしかない.しかしながら,練習において,過剰な負荷の運動は循環動態を悪化する可能性が高く,事前に避ける必要がある.それと同時に,日常生活活動においても,高い心負荷が予測される活動は意図的に排除,または介助下にて実施できるよう配慮が必要である.表3に健常人における日常生活活動のMETSの一覧を記載する.ただし,脳血管障害を有した対象者において,多くの場合,片側上下肢の麻痺を有している場合が多い.森ら2は,同じ活動を行った際に,健常人に比べ,脳血管障害後の対象者の方がよりやや小さい心負荷になると報告している(動作の速度等が制限されるため,これによる抑制効果と考えられている).これらを踏まえ,慎重に実施する活動を選別する必要がある.なお,亜急性期,生活期においては,急性期に比べ,循環動態も安定するため,過剰な配慮は不要となる場合も多い.
表1. リハビリテーションにおける中止基準(リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン[日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会編])
参照文献
1.リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン(日本リハビリテーション医学会安 全管理のためのガイドライン策定委員会 編). 医歯薬 出版, 東京, 2006
2.森英二.脳卒中片麻痺患者の基本動作に関する運動生理学的研究.リハビリテーション医学33: 49-60, 1995