脳卒中後上下肢に運動障害を生じた際の非運動障害側に生じるミラームーブメントについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.14
リハデミー編集部
2023.04.14

<抄録>

 ミラームーブメントは,脳卒中後,上下肢に運動障害を生じた対象者の非運動障害側に生じる不自然な現象の一つである.運動障害を生じた不自由な上下肢を使用した際に,その意図と同様の動きを非運動障害側の上下肢で表現してしまう現象である.近年,ミラームーブメントの意味づけが科学的にも進められているが,それらの確定的な意味については,不明な点が多い.臨床においても,それらを解放して良いのか,それとも抑制すべきなのか,それらも臨床家の好みの範疇で選択されている現状がある.本コラムにおいては2回にわたり,ミラームーブメントの定義等の解説を行う.本コラムにおいては,ミラームーブメントの定義,概念,歴史,メカニズム等について簡単に解説を行う.

1.ミラームーブメントの定義

 ミラームーブメントとは,『身体の半側で随意運動を行う際に,その対側の筋に随意運動を行った側と同等の動きが不随意運動として生じる現象』とFarmerら1は定義している.この現象は様々な言葉で表現されており”Global synkinesis2”,”motor overflow3”,”contralateral irradiation4”なども報告されている.ミラームーブメントは,発達の中で徐々に消失していくと考えられており,実際に10歳未満の健常な児童においては標準的にみられる現象と考えられている.しかしながら,成人においても中枢神経障害を罹患した場合には多くの対象者で見られることが報告されている.中枢疾患障害の中でも,半身の運動障害を有する脳卒中等では,ミラームーブメントの発生率は54.8%から70%と報告されており5,通常下肢よりも上肢で多く観測される.さらに,ミラームーブメントは,脳卒中の回復段階の様々なシチュエーションで発言すると考えられており,発症時間と共に徐々に消失すると言われている6.さらに・ミラームーブメントの現象の大きさは,障害側上下肢の運動障害の程度と相関関係があるとも言われている2.さらに言えば,より重度の運動障害を有する症例において,より長期間ミラームーブメントが残存するとも考えられている7.過去の研究において,ミラームーブメントの評価には表面筋電図が使用されることが多く,上記に示した研究においてもほとんどの研究で表面筋電図が利用されている.

2.ミラームーブメントのメカニズム

 ミラームーブメントのメカニズムについては,正直なところ明らかになっていないことがほとんどである.健常成人を見ると両側の筋活動は同等であり,片側の運動に対側の運動が影響されないことを鑑みれば,それらの動きは異常であることは間違いない.ただし,片側の脳が損傷されることにより,両側脳および身体の対称性が失われる可能性がある.一部の研究者は,脳損傷により片側の上下肢の末梢の運動出力が極端に低下することにより,両半球の運動関連領屋を過剰に活性化させ,運動を誘発しようとする可能性がある.その結果,Clelandらは,それらの過剰な活性が,非損傷側の脳へのオーバーフローを助長させ,非運動障害側にミラームーブメントを生じさせている可能性を示唆している.

まとめ

 今回はミラームーブメントの定義や歴史,メカニズム等について解説を行った.先行研究をサーベイしても,ミラームーブメントが重症度に相関する,重度例ほどミラームーブメントが残存するといった臨床上なんとなく経験している事象以外,詳細な内容は見当たらなかった.臨床において,ミラームーブメントの取り扱いに難渋することは多々ある.今後も様々なミラームーブメントに関する情報を精査していく必要があると思われた.


参照文献

1. Farmer, S. F. (2005). Mirror movements in neurology. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 76:1330.

2. Hwang, I. S., Tung, L. C., Yang, J. F., Chen, Y. C., Yeh, C. Y., and Wang, C. H. (2005). Electromyographic analyses of global synkinesis in the paretic upper limb after stroke. Phys. Ther. 85, 755–765.

3. Hoy, K. E., Fitzgerald, P. B., Bradshaw, J. L., Armatas, C. A., and Georgiou-Karistianis, N. (2004). Investigating the cortical origins of motor overflow. Brain Res. Brain Res. Rev. 46, 315–327

4. Hopf, H. C., Schlegel, H. J., and Lowitzsch, K. (1974). Irradiation of voluntary activity to the contralateral side in movements of normal subjects and patients with central motor disturbances. Eur. Neurol. 12, 142–147.

5. Lee, M. Y., Choi, J. H., Park, R. J., Kwon, Y. H., Chang, J. S., Lee, J., et al. (2010). Clinical characteristics and brain activation patterns of mirror movements in patients with corona radiata infarct. Eur. Neurol. 64, 15–20

6. Chieffo, R., Inuggi, A., Straffi, L., Coppi, E., Gonzalez-Rosa, J., Spagnolo, F., et al. (2013). Mapping early changes of cortical motor output after subcortical stroke: A transcranial magnetic stimulation study. Brain Stimul. 6, 322–329

7. Liu, P., Yuan, Y., Zhang, N., Liu, X., Yu, L., and Luo, B. (2021). Mirror movements in acquired neurological disorders: A mini-review. Front. Neurol. 12:736115

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