脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対してどのように関わるべきなのか?〜療法士3年目までに知っておきたい関わり方〜(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.26
リハデミー編集部
2023.04.26

<抄録>

 脳血管障害後に生じる高次脳機能障害は,脳の損傷部位により,多岐に渡る症状が引き起こされる症候を指す.また,この症候は,対象者とその周辺にいる関係者のQuality of life(QOL)に大きな影響を与える.さらに,臨床の中でも,作業療法士が関わる上で深い悩みを持つ領域でもある.これらの症候を見る際,あまりにも種別が多く,しかも同じ症候であっても人の生育歴や周辺環境によって,見え方はいく通りにもなることもあり,病態を正確に解釈し,臨床に活かすことは非常に困難を伴う.本コラムにおいては,高次脳機能障害に対する基礎的な考え方,接し方について,簡単に解説を行う.第二回は,高次脳機能に関わるエビデンス,特に診断方法に関する話題について中心に解説を行なっていく.

1.高次脳機能障害に関わるエビデンス界隈の話題

 昨今,エビデンスを基盤とした医療・実践(Evidence-based medicine/practice)が推奨され,リハビリテーションにおける様々な分野でもエビデンスを知っておくこと,使う準備ができていることへの重み付けが増しているように感じる.実際に,関連学会でも頻繁にエビデンスについて議論されることが多くなった.脳血管障害患者に関わる分野においてもその流れはあり,特に上肢運動障害に対するエビデンスの量と質はリハビリテーション分野においても指折りである.さて,そう言った流れの中で,脳血管障害を呈した対象者における高次脳機能障害に関するエビデンスも近年は増加している.

 さて,上記で示したように脳血管障害を罹患した後に生じる上肢機能障害については,診断が比較的簡易である.したがって,基本的には運動障害を改善するためのリハビリテーションプログラムの効果や推奨度といった項目がエビデンスをまとめたエビデンス集やガイドラインの大部分を占めることとなる.しかしながら,認知症や脳血管疾患障害における高次脳機能障害においては,その種別が多岐に渡ること,単体の症候として存在することが非常に稀である,背景因子に大きく左右される(第一回のコラムを参照いただきたい)ことから,その診断自体が非常に不安定であると考えられている.こういった特徴から,脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に関するエビデンスは,1)診断(症候分析)のエビデンス,2)それぞれの高次脳機能障害に対するリハビリテーションアプローチの効果に関するエビデンス,の二側面に分けて議論されることが多い.

2.高次脳機能障害に関わる診断(症候分析)のエビデンスへの関わり方

 高次脳機能障害の有無を判断する際には,教科書的に一般的とされている症候がそこにあるかどうかということに合わせて,低次の機能障害に依存しないことや,他の高次脳機能障害で説明できないことが大前提となる(注意障害や記憶障害,情動障害等,精神的基盤により近い症候の影響を受けてその症状らしきものが出現しているかどうかを吟味する必要がある).たとえば、ある対象者が,BADS遂行機能障害症候群の行動評価 日本語版を用いて評価を行なった際に,カットオフポイントを下回り,遂行機能障害が示されたとする.ただしこの際に,1)課題に集中することができているのか(注意障害),2)課題のルールを理解できているのか(言語理解:失語等の影響),3)課題を正確に知覚できているのか(視覚障害,失認等の影響),4)ルールを覚えることができているのか(記憶障害の影響),といったように,特に考えることなくざっと挙げるだけでも,遂行機能とは異なる高次脳機能障害によって,点数が減点される可能性が見える.従って,○○障害の基準となる評価によって,障害を示す点数が示されたからと言って,その障害があるということにはならない.

 ガイドライン等を見渡すと,評価方法のエビデンス(評価自体の妥当性・信頼性によって算出される)が示されている.ただし,上記の例からも分かるように,その評価を使用したから,確実に当該の高次脳機能障害を抽出できるとは限らず,あくまでもそれ以前の下処理として,その障害に影響を与えうる低次な問題(高次脳機能障害に関わるもの,関わらないもの全てを含む)を排除することで,初めて評価が本来持つ妥当性・信頼性を発揮することができる.こう言った背景をよく踏まえ,正確性の高い評価バッテリーを使用することが重要である.

まとめ

 本コラムにおいては,脳血管障害後の高次脳機能機能障害に関わるエビデンスへの関わり方について記載した,妥当性・信頼性の高い評価は世界中に多く存在する.しかしながら,それを使用したからと言って,正確な診断,症候分析ができるとは限らない.その評価を使用できるかどうか,下処理の正確性が病態を正確に理解するための本質と言える.第三回では,脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションアプローチの効果に関するエビデンスについて述べる.


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