脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対してどのように関わるべきなのか?〜療法士3年目までに知っておきたい関わり方〜(3)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.28
リハデミー編集部
2023.04.28

<抄録>

 脳血管障害後に生じる高次脳機能障害は,脳の損傷部位により,多岐に渡る症状が引き起こされる症候を指す.また,この症候は,対象者とその周辺にいる関係者のQuality of life(QOL)に大きな影響を与える.さらに,臨床の中でも,作業療法士が関わる上で深い悩みを持つ領域でもある.これらの症候を見る際,あまりにも種別が多く,しかも同じ症候であっても人の生育歴や周辺環境によって,見え方はいく通りにもなることもあり,病態を正確に解釈し,臨床に活かすことは非常に困難を伴う.本コラムにおいては,高次脳機能障害に対する基礎的な考え方,接し方について,簡単に解説を行う.第三回以降は,高次脳機能に関わるエビデンス,特にリハビリテーションプログラムに関する話題について中心に解説を行なっていく.ここは,対象者に対し,療法士がどのような治療的手段を選択するのか,と言ったてんで非常に重要な項目となる.また,対象者自身がどのようなアプローチが効果をもたらし,何を選択するのかと言った知識の補充にも重要な部分となる.本コラムにおいては,評価とその内容の説明,そして,全般的認知機能に対するリハビリテーションプログラムに関して述べる.

1.脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス (評価とその後の振る舞い,全般的認知機能障害に対するプログラムについて)

 脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンスについては,2021年に発行された脳卒中治療ガイドライン2021に代表的なリハビリテーションプログラムと各々の推奨度がまとめられている.

 まず,推奨度Aとエビデンスレベル中と記載されているアプローチに,「脳卒中発症後に,認知機能障害の有無や程度を評価すること1」が示されている.これは前回のコラム(脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対してどのように関わるべきなのか?〜療法士3年目までに知っておきたい関わり方〜(2))で示したように,対象者の病態を正確に知ることがまずリハビリテーションプログラムの効果を示す前提として挙げられている.そして,その情報を医療者のフィルターを通して,対象者の周囲の介助者(家族等含む)に伝えることも妥当とされている(推奨度B エビデンスレベル中).この所作だけでも,周囲の介助者の本人に対する認識,受け入れが大きく変わり,対象者の問題行動や二次的情動障害等が減少するケースもあると言われている2. 

 全般的な認知機能障害に対する研究も多くなされている.しかしながら,高次脳機能障害そのものが特異的な個別の症候であり,これらが集約されたものが全般的認知機能障害という括りになる.つまり,それぞれの特異的,個別的な症候に焦点を当てた評価,そしてリハビリテーションプログラムを提供しない限り,ここの改善はなかなか期待できないことは,火を見るよりも明らかである.実際,全般的な認知障害に対するアプローチ方法として,ニューロフィードバック療法3, 4やバーチャルリアリティ3, 5等が開発され,臨床研究も実施されているものの,十分な効果に関するエビデンスは取得できていないのが現状である.また,上記の練習もそうであるが,全般的認知機能を改善するためのリハビリテーションプログラムの構造が,全方位に目的が分散しているため,各対象者が困難を有している日常生活活動や応用的日常生活活動の問題点を明確に捉えることができない可能性がある.実際,全般的認知機能障害に対するリハビリテーションプログラムにおいて,日常生活活動や応用的日常生活活動に対して,優位性を持つものは現在のところ存在しないと考えられている6-8.

まとめ

 これらからも理解できるように,やはり,個別の症候に対する正確な評価から,ぞれぞれの症候を緩和する直接的・代償的なリハビリテーションプログラムは必要であることが予測される.第四回は,半側空間無視に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス について,解説を行なっていく.



参照文献

1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン, 2-11 高次脳機能障害,協和企画:p282-283

MicKinney M, et al. Evaluation of cognitive assessment in storke rehabilitation. Clin Rehabil 2002; 16: 129-136

2. van Heugten C, et al. Evidence-based cognitive rehabailitation after acquired brain injury: a systematic review of content of treatment. Neuropsycol Rehabil 2012; 22: 653-673

3. Renton T, eta l. Neurofeedback as a form of cognitive rehabilitation therapy following stroke: A systematic review. PLos One 2017; 12: e0177290

4. Aminov A, et al. What do randomized controlled trials say about virtuarl rehabilitation in stroke? A systematic literature review and meta-analysis of upper-limb and cognitive outcomes. J Meuroeng Rehabil 2018; 15: 29

5. Hoffman T, et al. A systematic review of cognitive interventions to improve functional ability in people who have cognitive impairment following stroke. Top Stroke Rehabil 2010; 17: 99-107

6. Hoffman T, et al. Occupational therapy for cognitive impairment in stroke patients. Cochrane data base syst rev 2010: CD006430

7. Yoo C, et al. Effect of computerized cognitive rehabilitation program on cognitive function and activates of living in stroke patients. J Phys Ther Sci 2015; 27: 2487-2489

8. Wentink MM, et al. The effects of an 8-week computer-based brain training programme on cognitive functioning, QoL and self-efficacy after stroke. Neuropsychol Rehabil 2016; 26: 847-865


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