脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対してどのように関わるべきなのか?〜療法士3年目までに知っておきたい関わり方〜(4)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.05.01
リハデミー編集部
2023.05.01

<抄録>

 脳血管障害後に生じる高次脳機能障害は,脳の損傷部位により,多岐に渡る症状が引き起こされる症候を指す.また,この症候は,対象者とその周辺にいる関係者のQuality of life(QOL)に大きな影響を与える.さらに,臨床の中でも,作業療法士が関わる上で深い悩みを持つ領域でもある.これらの症候を見る際,あまりにも種別が多く,しかも同じ症候であっても人の生育歴や周辺環境によって,見え方はいく通りにもなることもあり,病態を正確に解釈し,臨床に活かすことは非常に困難を伴う.本コラムにおいては,高次脳機能障害に対する基礎的な考え方,接し方について,簡単に解説を行う.第三回以降は,高次脳機能に関わるエビデンス,特にリハビリテーションプログラムに関する話題について中心に解説を行なっていく.ここは,対象者に対し,療法士がどのような治療的手段を選択するのか,と言ったてんで非常に重要な項目となる.また,対象者自身がどのようなアプローチが効果をもたらし,何を選択するのかと言った知識の補充にも重要な部分となる.本コラムにおいては,半側空間に対するリハビリテーションプログラムに関して述べる.

1.脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス (半側空間無視について)

 脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンスについては,2021年に発行された脳卒中治療ガイドライン2021に代表的なリハビリテーションプログラムと各々の推奨度がまとめられている.

 その中で半側空間無視に対しては、「反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS),経頭蓋直流電気刺激(tDCS),視覚探索課題,プリズムメガネを用いた訓練を行うことは妥当である」と言った文言があり,推奨度B エビデンスレベル中)とされている.また,これら特殊が光学機器や道具を用いないリハビリテーションプログラムとして,鏡面を用いた練習,冷水・振動・電気刺激を用いた練習,アイパッチを用いた練習についても考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)1」と言った記載もある.この辺りの手法を組み合わせて対象者の半側空間無視の特異性に合わせた介入を実施する必要がある.

 半側空間無視に対する介入戦略は近年,多くの研究者によって調査が進められている.例えば,半側空間無視に対するリハビリテーションプログラムに関するシステマティックレビュー2によると,半側空間無視に対して何らかの練習を実施することで,練習直後の即時的な症状の改善は認めるものの,本質的な長期的な症状の緩和や,日常生活活動への転移については,確認されていないと報告されている.半側空間無視は,机上における認知機能に対する練習と,日常生活活動が乖離することは多くの療法士にとってジレンマとなるところである.実際,近年の報告等を見ると実際の日常生活活動に対してアプローチを実施した方が,その場面に特異的な半側空間無視に対する代償もしくは直接的なスキルを獲得することから,それぞれの日常生活活動の場面における半側空間無視の影響を低下することができると言った報告も複数紹介されている3, 4.

 この点に関しては,半側空間無視の病態の特徴が大きく関わっているのかもしれない.例えば,机上における半側空間無視に対する練習は対象者のプライベートスペースにおける問題を反映するが,日常生活活動に関してはその外側のアウタースペースの問題も起因する.一部の対象者においては,これらのスペース間で半側空間無視の病態が異なる可能性も示唆されている.また,机上における半側空間無視に対する練習は能動的視覚性注意を惹起する課題がほとんどであることに対し,日常生活活動は受動的視覚性注意を必要とするシチュエーションが非常に多いことも関連しているのかもしれない.これら,半側空間無視に対する特異的な練習が,実際の生活において困りごとを生じている生活活動に必要なスキルとかけ離れていることが,練習効果が直接的な影響を与えない要因なのかもしれない.

まとめ

 これらからも理解できるように,半側空間無視に関しても,個別の症候に対する正確な評価から,ぞれぞれの症候を緩和する直接的・代償的なリハビリテーションプログラムは必要であることが予測された.これらの知見を用いて,半側空間無視に対するアプローチの戦略を立てる必要がある.さて,第五回は,記憶障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス について,解説を行なっていく.



参照文献

1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン, 2-11 高次脳機能障害,協和企画:p282-283

2. Bowen A, et al. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. 

Cochrane Databese Syst Rev 2013: CD003586

3. Edmans JA, et al. A comparison of two approaches in the treatment of perceptual problems after stoke. Clin Rehabil 2000; 14: 230-243

4. Osawa A, et al. Family participation can improve unilateral spatial neglect in patients with acute right hemispheric stroke. Euro Neurol 2010; 63: 170-175

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