カナダにおける脳卒中関連のリハビリテーションに関する最新のエビデンスをチェックする -リハビリテーションアセスメントについて-(7)ガイドラインにおける推奨されているアウトカムについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.05.24
リハデミー編集部
2023.05.24

<抄録>

 カナダの医療制度は,世界的にも珍しい皆保険に近い制度をとっており,本邦における公的保険下でのリハビリテーションを取り巻く環境に似ている.従って,背景環境の似ているカナダにおけるエビデンスは,本邦においても利用可能性が高いと考えている.さて,リハビリテーションを進める上で,効果検証や対象者の現状の状況を他職種や家族等に伝えるために,定期的に対象者に対してリハビリテーションに関するアセスメントを実施する必要がある.特に,入院中におけるリハビリテーションにおいては,その後,在宅や施設に対象者が帰ることで,環境が激変することもあり,アセスメントの重要性はさらに高まると考えられている.本コラムにおいては,脳卒中を発症後に入院環境で実施する最初のアセスメントについて,Canadian Stroke Best practice 2019より抜粋して,解説を行なっていく.第 七回はガイドラインにおいて,脳血管障害の重症度を確認するためのアウトカムについて,Canadian Neurological Scale(CNS),National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),Opington Prognostic Scale(OPS)について解説する.

1.推奨されているアウトカム(脳血管障害の重症度について)

1)Canadian Neurological Scale(CNS)1

 Canadian Neurological Scale(CNS)は,脳血管障害後に生じる神経学的な症状を確認するためのアセスメントツールである.項目は,急性期の意識障害および理解障害の有無にかかわらず精神活動(意識レベル,方向,発話),運動活動(顔,腕,脚)の評価を行うものである.最高得点は11.5点で,点数が低いほど,重症度が高いことを示している.所要時間は,臨床医師もしくは療法士等によって,約5-10分の観察で実施可能であると言われている.ただし,実施する者は脳血管障害を呈した対象者に対する専門的な知識を有するものである必要がある.ただし,この評価に特化した特別なトレーニングを受けることなくとも実施はできるとされている.このアセスメントツールはシンプルな設計がなされており,スピードが求められる急性期の脳血管障害の重症度の把握に適していると考えられている.

 

2)National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)2

 National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)は,脳血管障害後に生じる神経学的な症状を確認するためのアセスメントツールである.意識レベル,顔面麻痺,無視や視覚,感覚,運動,言語,言語障害の有無の評価を含む11の項目から構成されている.点数は42点満点で評価され,得点が高いほど重症度が高いとされている.1-4点が軽度障害,5-14点が軽度から中等度,15-24点が重度,25点以上が非常に重度と基準が分けられている.臨床医や療法士によって,5-10分程度の観察にて記載することができる.神経内科医以外でも,脳血管障害を呈した対象者に対する医学的なトレーニングを実施しているならば,使用することが可能と考えられている.また,項目の中には,意識レベルが低く,従命できない重度な対象者においては,一部の項目が使用できないと言われている.


3)Orpington Prognostic Scale(OPS)

 Orpington Prognostic Scale(OPS)は,脳血管障害後の障害の重症度を評価するためのアセスメントツールである.また,特に対象者がリハビリテーションの適性を有するかどうかを見極めるために有効であることが示唆されている.上記の2つの脳血管障害後の重症度評価に比べると身体的評価が多く,腕の運動機能,感覚障害,バランス障害,認知機能の4項目から評価が構成されている.最高点は6.8点であり,得点が高いほど,重症度が高いことを示すと言われている.このアセスメントツールは,3.2点未満が軽度から中等度,3.2点から5.2点が中等度,5.2点以上が重症と解釈することができる.所要時間は,臨床医もしくは療法士の観察により,5分以内に終了することができる迅速でシンプルなアセスメントツールである(臨床にて,フィジカルアセスメントに長けたものが実施する必要があるため,療法士の実施の方が適切であるかもしれない).ただし,項目には対象者の随意的な動きや応答が必要なため,症状が安定していない急性期においては使用できない場合もある.また,フィジカルアセスメントに関する知識・技術・観察眼は必要であるものの,このアセスメントツールを使用するための特別なトレーニングは必要ないと考えられている.

まとめ

 今回は,脳卒中を発症後に入院環境で実施する最初のアセスメントについて,Canadian Stroke Best practice 2019より抜粋して,解説を行った.これらのアセスメントツールの中には,本邦で使用されていないものもあり,これらの翻訳および邦人における妥当性・信頼性の確認が望まれると感じた.第八回は運動機能に関する代表的な評価を複数紹介していく.


参照文献

1. Brott T, Adams HP Jr, Olinger CP, Marler JR, Barsan WG, Biller J, et al. Measurements of acute cerebral infarction: a clinica l examination scale. Stroke. 1989;20:864-870. 

2. Cote R, Hachinski VC, Shurvell BL, Norris JW, Wolfson C. The Canadian Neurological Scale: a preliminary study in acute stroke. Stroke. 1986;17:731-737. 

3. Kalra L, Crome P. The role of prognostic scores in targeting stroke rehabilitation in elderly patients. J.Am.Geriatr.Soc. 1993;41:396-400. 

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