脳卒中患者に対するリハビリテーションにおける体幹トレーニングの効果について(4)〜バランス練習のエビデンスについて〜
<抄録>
リハビリテーションを進める上で、臨床においても「体幹トレーニング」の重要性を説く療法士は多い。ある療法士は、麻痺手に対するアプローチを実施する際でも「大木でも太い幹がなければ枝葉は伸びない」といったエピソードをあげて、そのトレーニングの重要性を説くこともある。特に伝統的な徒手療法では体幹に対する詳細なアプローチを重要視していることが多く、新人に対する教育現場でも取り上げられることが多いテーマである。これまでにもシステマティックレビューやメタアナリシス、ランダム化比較試験といった正確性の高い研究デザインを用いた研究においても、これらのテーマはよく扱われている。過去の研究では、体幹機能、評価等に用いられる特異的な活動のパフォーマンスを改善するといった結果が示されている。しかしながら、そのトレーニングが日常生活活動やQuality of life、その他のリアルワールドアウトカムにどういった影響があるかは不明な点が多い。本コラムにおいては、4回に渡り、これらのテーマについて、解説を行っていく。第4回は脳卒中後の体幹に対するトレーニングのバランス練習のエビデンスについて解説を行う。
1. 脳卒中を罹患した対象者の体幹の運動障害に対するトレーニングのエビデンス
第2-3回に示した脳卒中を罹患した対象者の体幹の運動障害に対するトレーニングについて、多くの検証が実施されており、その効果に対する検討もなされている。体幹トレーニングは、体幹機能を向上させるだけでなく、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)における他の要素である移動能力、バランス、日常生活活動における転期、およびQuality of lifeにも影響を与える可能性が指摘されている。脳卒中を罹患した対象者の体幹の運動障害に対するトレーニングは、体幹の筋力および持久力を改善し、その付帯的な影響によって、座位バランスおよび適切な静的・動的バランスの改善をうみ、その結果、日常生活活動に関連するアウトカムを改善すると言われている。
これまで、脳卒中患者の体幹における運動障害に対するトレーニングに対する正確性が比較的高いレビューは複数ある。例えば、Cabanas-Valdesら1は、システマティックレビューを実施し、11件の臨床研究をレビューしている。メタアナリシスは実施していないものの、体幹トレーニングは、体幹機能に中程度の良好な影響を与えると述べている。Alhwoaimelら2は、システマティックレビューの結果、17の研究を対象とし、メタアナリシスを実施した結果、体幹トレーニングが体幹機能の改善に大きな影響を与えることを示した。また、van Criekingeら3も22の試験をシステマティックレビューにて検出し、体幹トレーニングは体幹機能の改善に大きな影響を与えるとまとめている.しかしながら、Sorinolaら4は、システマティックレビューを実施し、6つの研究を対象にメタアナリシスを実施している。その結果、座位のバランス練習および体幹トレーニングは、体幹機能に影響を与えないといった結果も出しており、まだ確定的に体幹トレーニングが体幹機能に良い影響を与えるかどうかは疑問が残る点もあると考えられている。ただし、これらの研究では思いにICFにおける身体機能・構造のアウトカムに対する検討が主であり、体幹トレーニングが、Quality of lifeをはじめとしたその他の人の幸福や生活に直結する指標に関する研究は不十分であると言われている。
そこで、Thijsら5が、脳卒中後の体幹に関する運動障害に対するトレーニングが、ICFにおける身体機能・構造以外のアウトカムに与える影響について、検討している.彼らは、68の研究をシステマティックレビューにて検出し、これらに対して、メタアナリシスを実施している。その結果、脳卒中を罹患した対象者に対するリハビリテーションの中で、体幹トレーニングを実施することで、対象者の日常生活活動、体幹機能、立位バランス、歩行機能、上肢・下肢の機能、Quality of lifeが改善することを示唆するエビデンスが存在することが明らかになった。最後に、このシステマティックレビュー、メタアナリシスにおいて、採用された体幹アプローチは、第2, 3回で紹介した7つのアプローチのうち、1)コア・スタビリティ・トレーニング、3)体幹の筋力に対する選択的なトレーニング、6)不安定な地場における座位や立位練習の3つを含む練習を介入に選択した研究を対象に実施されており、これらのアプローチに関するエビデンスであると理解する必要がある。ただし、バイアルリスクの低い研究のみを抽出した場合、その信頼性は非常に低いから中等度程度であったとも述べられている。
まとめ
全4回に渡り、脳卒中後に生じる体幹の運動障害に対する体幹トレーニングについて、解説を行った。基本的に効果は検証されているため、積極的にリハビリテーションの一場面に導入していくことが必要である。しかしながら、理学療法士、作業療法士、それぞれの役割を鑑みつつ、それらの形態、種別を吟味する必要もある。
参照文献
1. Cabanas-Valdés R, Cuchi GU, Bagur-Calafat C. Trunk training exercises approaches for improving trunk performance and functional sitting balance in patients with stroke: a systematic review. NeuroRehabilitation 2013;33(4):575-92.
2. Alhwoaimel N, Turk R, Warner M, Verheyden G, Thijs L, Wee SK, et al. Do trunk exercises improve trunk and upper extremity performance, post stroke? A systematic review and metaanalysis. NeuroRehabilitation 2018;43(4):395-412.
3. Van Criekinge T, Truijen S, Schröder J, Maebe Z, Blanckaert K, van der Waal C, et al. The eHectiveness of trunk training on trunk control, sitting and standing balance and mobility post-stroke: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation 2019;33(6):992-1002.
4. Sorinola IO, Powis I, White CM. Does additional exercise improve trunk function recovery in stroke patients? A meta-analysis. NeuroRehabilitation 2014;35:205–13.
5. Thijs L, Voets E, Denissen S, Mehrholz J, Elsner B, Lemmens R, Verheyden GS. Trunk training following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews 2023; 3: CD013712