脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(4) 〜振動刺激が身体機能に与える影響の大脳実質レベルにおけるメカニズム〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.07.17
リハデミー編集部
2023.07.17

<抄録>

 脳卒中後の運動麻痺は多くの対象者に生じ、彼らのQuality of lifeを低下させると言われている。昨今、様々なアプローチが開発されている。そのうちの一つに、振動刺激を用いたアプローチ方法が昨今挙げられている。振動刺激を用いた介入としては、痙縮の低下に対して、米国心臓/脳卒中学会が取り上げるほど、一般的なアプローチの一つとされている。しかしながら、どういった成り立ちで振動刺激が一般臨床において利用され、どのような利用に効果があるのかについては、不明な点が多い。本コラムにおいては、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激がどのように発展しどのように使われてきたかについて、複数回にわたって解説を行う。第三に続き、四回でも、振動刺激が身体的機能の改善する背景に潜む大脳実質レベルにおけるメカニズムについて解説を行う。

1.動刺激が身体機能に影響を及ぼすメカニズムについて〜大脳実質レベルにおける生理学的メカニズム〜(第三回の続き)

 functional MRI(fMRI)等を用いた研究では、70-80Hzの腱に対する振動刺激に反応する、大脳皮質の反応は体性感覚皮質だけでなく、一次運動野、補足運動野、帯状皮質運動野(帯状皮質運動野は、前頭葉内側部の帯状溝(cingulate sulcus)に沿って存在する運動野である。 一次運動野や脊髄に直接投射し、この領域を電気刺激すると運動が誘発され、広義の運動前野の1つとみなされる。 また、帯状皮質運動野吻側部は、報酬の情報に基づく行動選択などの高次機能にも関与する)でも起こることが報告されている[1-3]。少なくとも、猫を用いた研究においては、3a領域(一次体性感覚野はさらに3a野、3b野、1野、2野に別れる)と一次運動野の間に強い興奮性を生じることが明らかになっている[4]。これらの知見から、一次運動野の興奮性は、Ia求心性神経によって直接駆動される体性感覚皮質の3a領域からの神経投射を通じて、人においても確認される可能性が他の研究者からも示唆されている[5]。上記で示した、感覚神経由来の運動関連領野の反応を引き起こす最適な周波数は、筋紡錘から脊髄に伸びるIa求心性線維が最も強く活性化すると考えられている周波数75Hz帯付近であると考えられている[6-7]。

 これまでに示した先行研究を統合すると、腱への振動刺激は、確実な求心性のフィードバックとなり、振動刺激を実施している最中、もしくはその直後に一次体性感覚野および運動関連領野の興奮性を高めるという考え方が、世界中でも支持されている。大脳皮質における興奮性においては、振動刺激を提示した筋肉に関連する感覚運動領域で最も高くなると推測されているが、脳実質全体の賦活傾向を示す報告もあり[8]、この辺りについては、一定の見解が得られていない状況である。

 振動刺激によって、興奮性が向上する領域には、運動を計画や四肢全体の感覚入力の統合に関わる部分が含まれている。これらから、振動刺激による大脳皮質の興奮性の向上は、四肢の特に近位関節に関連する皮質ニューロンの参加を促進することが考えられている。ただし、この辺りは、刺激に反応する領域からの推論に過ぎないため、過剰な過信は禁物であると言える。

 これらの知見からもわかるように、末梢受容器に対する振動刺激は、上肢の制御に深く関与する感覚運動関連領野の興奮性を上昇させることにより、運動における感覚フィードバックとそれらを用いた運動制御、さらには運動の展望的計画といった点を改善する可能性が示唆されている。

まとめ

 本コラムにおいては、振動刺激が身体機能に与える影響の大脳実質レベルにおけるメカニズムについて、解説を行った。この領域は、多くの基礎研究がなされており、多角的な理解が必要である。よって、第五回は、脳卒中患者に対して、振動刺激がどのような影響を与えるのかについて、先行研究からレビューを行っていく。


参照文献

1. Naito E, Ehrsson HH, Geyer S, Zilles K, Roland PE. Illusory arm movements activate cortical motor areas: a positron emission tomography study. J Neurosci 1999;19:6134-44

2. Radovanovic S, Korotkov A, Ljubisavljevic M, Lyskov E, Thunberg J, Kataeva G et al. Comparison of brain activity during different types of pro-prioceptive inputs: a positron emission tomography study. Exp Brain Res 2002;143:276-85. 

3. Romaiguere P, Anton JL, Roth M, Casini L, Roll JP. Motor and parietal cortical areas both underlie kinaesthesia. Cogn Brain Res 2003;16:74-82

4. Zarzecki P, Shinoda Y, Asanuma H. Projections from area 3a to the motor cortex by neurons activated from group i muscle afferents. Exp Brain Res 1978;33:269-82

5. Huerta MF, Pons TP. Primary motor cortex receives input from area 3a in macaques. Brain Res 1990;537:367-71

6. Steyvers M, Levin O, Van Baelen M, Swinnen SP. Corticospinal excitability changes following prolonged muscle tendon vibration. Neuroreport 2003;14:1901-5. 

7. Steyvers M, Levin O, Verschueren SMP, Swinnen SP. Frequencydependent effects of muscle tendon vibration on corticospinal excitability: a TMS study. Exp Brain Res 2003;151:9-14

8. Roll JP, Vedel JP. Alteration of proprioceptive messages induced by tendon vibration in man: a microneurographic study. Exp BrainRes 1989;76:213-22

9. Smith L, Brouwer B. Effectiveness of muscle vibration in modulating corticospinal frequency. J Rehabil Res Dev 2005;42:787- 94.

前の記事

脳卒中後のリハビリテ...

次の記事

脳卒中後のリハビリテ...

Top