変形性関節症後に生じる痛みに対する電気刺激の鎮痛効果について(3)〜ゲートコントロール理論について〜

竹林崇先生のコラム
運動器疾患
リハデミー編集部
2023.08.02
リハデミー編集部
2023.08.02

<抄録>

 変形性関節症は、高齢者に頻繁に見られる筋骨格系の疾患であり、最も多いものは、膝関節に出現するものと考えられている。リハビリテーションの場面においても、合併症として、膝関節の痛みによって、リハビリテーションプログラムの進捗や日常生活活動が阻害されることが多々ある。また、対象者も痛み、関節のこわばり、痛みによる活動制限などにより、Quality of lifeが低下することも多い。したがって、これらの対象者に対して、単純な日常生活活動の拡大を目標としたアプローチだけでは不十分であり、痛みに適切に対処したてリハビリテーションのプログラムを提供することが必要不可欠である。近年、膝関節に対する痛みに対して、末梢電気刺激を用いたアプローチが提供されている。本コラムにおいては、末梢電気刺激を用いたアプローチが対象者の膝痛に対して、どのような影響を与えるかについて、複数回にわたり情報提供を行う。第三回は痛みのコントロールにおいてよく用いられるゲートコントロール理論について解説する。

1. ゲートコントロール理論とは?

 ゲートコントロール理論は、痛みのメカニズムを説明するために提唱された、神経生理学的理論の一つである。この理論は、痛みは単純な生理的刺激によって引き起こされるわけではなく、むしろ神経系のより複雑な仕組みによって制御されている可能性について示唆している。

 この理論は、痛みを感じる神経系は閉塞可能な「ゲート」として機能することを理論の中で定義している。このゲートは、身体からの感覚情報を伝える痛覚神経線維と、身体からの情報を伝える非痛覚神経線維の信号を調節する役割を果たしているとされている。この理論によると、痛みを人が感じるかどうかは、以下の3つの要因が関連していると考えられている。3つの要因とは、1)痛覚神経線維に与えられた刺激の大きさと頻度、2)閉塞可能なゲートの開閉の状態、3)閉塞可能なゲートに影響を与える情報の種別と強度、が挙げられている。

 例えば、痛みに対するアプローチの一つであるマッサージや温熱療法等の身体的な干渉は、閉塞可能なゲートを開き、痛みを軽減することができると考えられている。一方、ストレスや不安などの精神的、情動的な因子は、ゲートを閉じてしまい、痛みを増長すると考えら得ている。これら、ゲートコントロール理論は、痛みを制御するための様々なアプローチの開発に非常に有用であったと言われている。この理論に基づき、物理療法や行動療法、認知療法などのアプローチが開発され、現在では広く用いられている。

 ゲートコントロール理論について記載されている論文をいかにいくつか紹介する。Melzackら[1]は、ゲートコントロール理論を最初に提唱したグループである。彼らは、伊丹の感覚形は神経系の複雑な仕組みによって制御されることを示唆し、閉塞可能な『ゲート』が痛みの伝達を調整する役割を果たすことを提唱した。

 Fieldsら[2]は、ゲートコントロール理論を発展させた”State dependent opioid control of pain”の理論を提唱した。この理論は、オピオイド受容体の活性化が、痛みの伝達を阻害することで、痛みの調整に関与している可能性を示唆最多ものである。

 Moseleyら[3]は、ゲートコントロール理論に基づく最新の痛みに関する科学的知見を論文の中で紹介している。彼らは、痛みは生体の繊細な調節システムの一部であり、心理社会的要因が痛みの発生や進行に影響を与えることをこの論文の中で強調している。

 最後に、Ecclestonら[4]は、ゲートコントロール理論に基づいた認知-情動モデルについてこの論文の中で示唆している。彼らは、痛みが認知と情動に干渉することで、痛みの経験がより深刻になることを示している。

 上記からもわかるように、ゲートコントロール理論は、痛みの制御を語る上で、知っておかねばならないアプローチの一つと言える。これらの理論と、実際の手法がどのような関連性を持ち、痛みに対して影響を与えるのかを考察することで、眼前の対象者に対するアプローチ方法の選択の幅が広がることが考えられる。

まとめ

 本コラムにおいては、ゲートコントロール理論について、簡単にまとめた。1960年代に提唱された理論ではあるものの、近年までの痛みに関する研究における基盤的な役割を務めた理論である。また、その理論自体も科学的に明らかにされてきている部分もあり、今後より発展が見込まれる分野であると思われた。次回、第4回のコラムでは、「痛みにおけるゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関連」について述べていく。


参照文献

1. Melzack, R., & Wall, P. D. (1965). Pain mechanisms: a new theory. Science, 150(3699), 971-979.

2. Fields, H. L. (2004). State-dependent opioid control of pain. Nature Reviews Neuroscience, 5(7), 565-575.

3. Moseley, G. L. (2007). Reconceptualising pain according to modern pain science. Physical therapy reviews, 12(3), 169-178.

4. Eccleston, C., & Crombez, G. (1999). Pain demands attention: a cognitive-affective model of the interruptive function of pain. Psychological bulletin, 125(3), 356-366.

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