変形性関節症後に生じる痛みに対する電気刺激の鎮痛効果について(4)〜痛みにおけるゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関連性〜

竹林崇先生のコラム
運動器疾患
リハデミー編集部
2023.08.04
リハデミー編集部
2023.08.04

<抄録>

 変形性関節症は、高齢者に頻繁に見られる筋骨格系の疾患であり、最も多いものは、膝関節に出現するものと考えられている。リハビリテーションの場面においても、合併症として、膝関節の痛みによって、リハビリテーションプログラムの進捗や日常生活活動が阻害されることが多々ある。また、対象者も痛み、関節のこわばり、痛みによる活動制限などにより、Quality of lifeが低下することも多い。したがって、これらの対象者に対して、単純な日常生活活動の拡大を目標としたアプローチだけでは不十分であり、痛みに適切に対処したてリハビリテーションのプログラムを提供することが必要不可欠である。近年、膝関節に対する痛みに対して、末梢電気刺激を用いたアプローチが提供されている。本コラムにおいては、末梢電気刺激を用いたアプローチが対象者の膝痛に対して、どのような影響を与えるかについて、複数回にわたり情報提供を行う。第三回は痛みのコントロールにおいてよく用いられるゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関連性について、簡単に解説を行なっていく。

1. ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関係性について

 ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の間には、密接な関係性があると考えられている。ゲートコントロール理論に基づいた経皮的電気刺激療法は、痛みの治療に有効な非薬物的療法の一つとして取り扱われている。

 経皮的電気刺激療法は、低周波(10Hz以下)と高周波(80Hz-100Hz)の電気刺激を用いて、痛みを緩和するアプローチ方法である。このアプローチ方法は、神経系のゲートを開いて、痛みの伝達を調整することができると考えられている。具体的には、痛覚神経線維と非痛覚神経線維の信号のバランスを変化させ、痛みを変化する効果があると言われている。

 低周波の電気刺激は、痛みの感覚を減少させる効果があると言われている。これは神経系の閉塞しているゲートを開き、痛覚神経線維の信号を調節することで実現できると考えられている。一方、高周波の電気刺激は、神経系の開放しているゲートを閉じることにより、痛みを軽減する効果があると言われている。これは、非痛覚神経線維の信号を増強することによって起こる減少だと考えられている。

 経皮的電気刺激療法は、痛みの治療に有効なアプローチの1つとして、慢性疼痛や神経痛の治療に広く用いられている。ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関係性について、以下の研究が示唆に富んでいる。

 Slukaら[1]は経皮的電気刺激療法の疼痛制御のメカニズムとして、ゲートコントロール理論の影響を示唆している。このレビューでは、経皮的電気刺激療法の周波数は、一般的に2-10Hzを低周波、80-120Hzを高周波と分類している。低周波刺激は下行性抑制経路を動員させ、痛みの伝達を抑制することで鎮痛を誘発する(ゲートを閉じる)。一方、高周波の刺激は痛覚のゲートコントロール理論に基づく効果がある((A-β)を刺激して小径線維(A-δ、C)し、ゲートコントロールを活性化する)と示唆している。また、論文の中で、強度:対象者の快適な刺激強度、パルス幅:刺激したい部分の深さによって、パルス幅を変調する。パルス幅が短い刺激は浅い神経、長い刺激は深い神経を刺激できる、刺激箇所:基本的に、痛みが発生している神経線維や筋に対して、ダイレクトに電極を置くべきである、と記載されている。

 Kogaら[2]は、ラットを用いた研究で、経皮的電気刺激が痛みによって誘発されたβ-エンドルフィン免疫反応性を減少することを明らかにしている。しかしながら、この論文の中には、電気刺激のパラメーターについては具体的には触れられておらず、経皮的電気刺激全般に対する影響を述べている。

 最後に、Johnsonら[3]の研究では、ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激の関係性においては、電気刺激によって、神経の興奮性が調整されることで疼痛が軽減されることが示唆されている。具体的には、電気刺激は末梢神経線維(Aβ線維)に作用して、疼痛を伝達するC線維やAδ線維の活動を抑制することができると示唆している。また、これに加え、電気刺激による内因性オピオイドの放出も痛みの抑制に関与していると結論づけている。しかしながら、この論文でも具体的な電気刺激のパラメーターについては触れられていない。

まとめ

 上記を鑑みると、ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法の関連性については、周波数の話も含め、明確なコンセンサスは得られていないように見える。次回は、変形性関節症の痛みに関して、ゲートコントロール理論と経皮的電気刺激療法がどのように関与するかについて、述べる。


参照文献

1. Sluka, K. A., & Walsh, D. (2003). Transcutaneous electrical nerve stimulation: basic science mechanisms and clinical effectiveness. The Journal of Pain, 4(3), 109-121.

2. Koga, Y., Tsuruoka, H., & Mikami, Y. (2004). Transcutaneous electrical nerve stimulation reduces pain-induced beta-endorphin immunoreactivity in rats: an immunohistochemical study. Neuroscience Letters, 366(2), 240-243.

3. Johnson, M. I., Tabasam, G., & Boucher, G. (2003). The application of the gate control theory in the management of chronic pain through physical modalities. Physical Therapy Reviews, 8(3), 179-186.

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