変形性関節症後に生じる痛みに対する電気刺激の鎮痛効果について(2)

竹林崇先生のコラム
運動器疾患
リハデミー編集部
2023.07.31
リハデミー編集部
2023.07.31

<抄録>

 変形性関節症は、高齢者に頻繁に見られる筋骨格系の疾患であり、最も多いものは、膝関節に出現するものと考えられている。リハビリテーションの場面においても、合併症として、膝関節の痛みによって、リハビリテーションプログラムの進捗や日常生活活動が阻害されることが多々ある。また、対象者も痛み、関節のこわばり、痛みによる活動制限などにより、Quality of lifeが低下することも多い。したがって、これらの対象者に対して、単純な日常生活活動の拡大を目標としたアプローチだけでは不十分であり、痛みに適切に対処したてリハビリテーションのプログラムを提供することが必要不可欠である。近年、膝関節に対する痛みに対して、末梢電気刺激を用いたアプローチが提供されている。本コラムにおいては、末梢電気刺激を用いたアプローチが対象者の膝痛に対して、どのような影響を与えるかについて、複数回にわたり情報提供を行う。第二回は変形性関節症にて生じる痛みに対して、電気刺激療法がどのように使用されてきたかについて触れる。

1. 変形性関節症で生じる痛みに対する電気刺激療法の実際について

 経皮的電気刺激療法は、比較的安価に実施できる非侵襲的なアプローチ方法として、リハビリテーションプログラムにおいて、多用されている。経皮的電気刺激療法は、疼痛に対しても多く利用されており[1]、変形性関節症で生じる疼痛管理にも使用されている。経皮的電気刺激療法とは、皮膚を通して、生体に電流を流す手法を指し、周波数、パルス幅、持続時間、電流強度等のパラメーターを調整することができる[2].2001年にPhiladelphiaらは、経皮的電気刺激療法を実施した群が、模擬的に電気刺激療法を実施するように見せかけたプラセボ群に対して、有意に膝の痛みを軽減したといった研究結果を示した。この研究では、主観的な痛みは有意に減少したが、その影響が出るであろう下肢機能や日常生活活動に関わるパフォーマンスのアウトカムについては検討されいなかった。しかしながら、論文の考察として、痛みの軽減が下肢機能や日常生活活動に関わるパフォーマンスやQuality of lifeに影響を与える可能性について示唆がなされていた。

 他の研究者の報告では、Yadavら[2]は、低周波および高周波の経皮的電気刺激療法は、対照群に比べ有意な痛みの軽減効果を示したと報告している.また,Pietrosimoneら[4]も,感覚閾値レベルに設定した経皮的電気刺激療法が、対照群に比べ有意な疼痛の軽減と筋の活性化が得られたと報告している。

2. 経皮的電気刺激療法の疼痛抑制に関するメカニズムについて

 経皮的電気刺激療法の作用機序については、さまざまな理論が提唱されており、こちらも結論を見ていない。例えば、侵害受容器の抑制、求心性の感覚神経刺激による痛みの伝達の遮断、交感神経の遮断、ゲートコントロール理論、内因性オピオイドの放出量の増加など、様々な理論が提案されている。[5]

 この中でも,経皮的電気刺激療法の効果の基本的なメカニズムとして知られている『ゲートコントロール理論』が多くのシチュエーションで採択されている。ゲートコントロール理論とは、電流が大径線維(A-β)を刺激して小線維(A-δ, C)を抑制することにより、脊髄後角のゼラチノサ実質のゲートが閉じると考えられている。この考え方を鑑みると、低周波(10Hz以下)の高強度の経皮的電気刺激は、下行性抑制機構を動員し、痛みの伝達を抑制することで、鎮痛を誘発する。また、高周波(80-100Hz)の経皮的電気刺激は、A-β繊維を刺激することでゲートコントロールを活性化し、A-δ, Cを抑制することで、鎮痛を誘発することができると考えられている[6]。これら機序が異なる2種類のメカニズムによって、電気刺激療法によって、疼痛がコントロールされるものと考えられている。

まとめ

 本コラムにおいては、疼痛に対する経皮的電気刺激療法の実際とそのメカニズムについて、解説を行った。第3回は、変形性関節症によって生じる痛みについて、どのような種類の経皮的電気刺激療法が有効であるかについて、解説を行っていく。


参照文献

1. Vance CG, Rakel BA, Blodgett NP, DeSantana JM, Amendola A, Zimmerman MB, et al. Effects of transcutaneous electrical nerve stimulation on pain, pain sensitivity, and function in people with knee osteoarthritis: a randomized controlled trial. Phys Ther. 2012;92(7):898-910

2. Yadav M, Attrey P, Kamal S. High or Low Frequency Tens in Patients with Knee Osteoarthritis- What Works Better? Int J Physiother Res. 2017;5(4):2203-8

3. Philadelphia P. Philadelphia Panel evidence-based clinical practice guidelines on selected rehabilitation interventions for knee pain. Phys Ther. 2001;81(10):1675-700.

4. Pietrosimone BG, Saliba SA, Hart JM, Hertel J, Kerrigan DC, Ingersoll CD. Effects of transcutaneous electrical nerve stimulation and therapeutic exercise on quadriceps activation in people with tibiofemoral osteoarthritis. J Orthop Sports Phys Ther. 2011;41(1):4-12

5. Altay F, Durmus D, Canturk F. Effects of TENS on Pain, Disabiliy, Quality of Life and Depression in Patients with Knee Osteoarthritis. Turk J Rheumatol. 2010;25(3):116-21.

6. Suh HR, Kim TH, Han GS. The Effects of High-Frequency Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation for Dental Professionals with Work-Related Musculoskeletal Disorders: A Single-Blind Randomized Placebo-Controlled Trial. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:327486. 

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