ロボットを用いた脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーション における適切な難易度調整について 〜筆者がまとめる論文解説〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, その他
リハデミー編集部
2022.05.13
リハデミー編集部
2022.05.13

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対して,様々な上肢機能練習が開発され,エビデンスが確認されている.この障害に対して,効果のエビデンスが確立されているアプローチとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)やロボット療法が有名なところである.これらのアプローチにおいて,非常に重要視されていうるものが,課題の質と量である.質とは適切な難易度であり,量とは適切な練習量を指す事が多い.多くこの研究において,練習量に関する研究は多々認められる.しかしながら,適切な練習の質に関する研究は非常に少ない.本コラムにおいては,ロボット療法における適切な練習の質について検討した筆者らの論文を紹介し,その内容について解説を行う.

1. ロボットリハビリテーションにおける難易度を取り巻く背景

 脳卒中後のリハビリテーションにおいて,疾患罹患後に生じる上肢麻痺は,対象者のQuality of lifeに負の影響を与える大きな因子の一つと言われている.特に,上肢麻痺は,脳卒中患者の2/3が罹患後から生活きにおいて有する障害であり,その治療手段の解明は急務であるとされている1.

 ロボット療法のエビデンスとしては,現状の認識としては,上肢機能の改善に対して,従来のリハビリテーションと同等の効果を有する,となっており,そのために人的資源を必要とせず,練習量を確保できる道具であると認識されている2, 3.

 さて,ロボット療法で用いるロボットにも多くの種類が存在する.多くのロボットが採用しているのが,ロボットがモーターなどの外力を用いて,対象者の方が麻痺等の運動障害により,正確に実施できなくなった運動をアシストすることで,正確な運動を繰り返し,実施するよう支援する機構である.

 このアシストについての考え方が,先行研究等を鑑みると大きく2つに分かれる.1つは,ロボットによるアシストを加えて,エラーや誤差を最小化する”error reduction strategy”と言われている.この手法は,誤差を減らし,適切な学習を繰り返すことによって,運動学習および機能改善を目指すコンセプトとされている.このコンセプトは,療法士が対象者の麻痺手を支えながら繰り返し練習を実施する”active assistive strategy”もこれに類似していると言われている.もう一方が,”error argument strategy“と言われるものである.このコンセプトは,ロボット側が抵抗運動などを加え,それにより敢えて正確な運動との誤差を創造し,より困難な課題に立ち向かうことで,運動学手のプロセスを促進しようとする物である.

 ただし,Rowら4は,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者に対しては,error reduction strategyの有用性について 述べている.彼らは,より重度な手指の麻痺を呈した対象者は,より多くのロボットによるアシストを加え,正確な反復運動を繰り返した方がより良い改善を示したと報告している.ただし,いくつかの研究5,6では,Slacking Hypothesisと言われている,ロボットによるアシストが大きすぎて,対象者が意図に伴う随意運動を適切に用いる事ができなかった場合には,麻痺手の運動学習および機能改善は認められないとも報告している.これらから,適切なロボットのアシストによる”error reduction strategy”が重要であると考えられている.

2. 我々の研究結果の方向性について

 我々は,2016年に実施した,脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者に対するReoGo®︎(麻痺側の肩肘前腕の機能改善を目的としたロボット.現在は帝人ファーマ株式会社が後継機のReoGo®︎-Jを取り扱っている)の自主練習機器としての効果を示した論文7に関して,後ろ向き解析を行い,比較的良い予後,比較的悪い予後を示した対象者にどのようなアシストの練習が提供されたかを,クラスター分析を用いて,調査した8.調査結果は,図1に示したとおり,より麻痺が重度の対象者においては,ロボットによるアシストが多いモードを使用した対象者の機能改善が有意に大きいことが示された.加えて,より軽度の麻痺を有した対象者においては,ロボットによるアシストが少ないモードを使用した対象者の機能改善が有意に認められた.これらの結果から,我々の研究においては,適切な error reduction strategyを用いた介入戦略が有用である可能性について示唆を行った.



参照文献

1. Nakayama H, et al. Recovery of upper extremity function in stroke patients: the Copenhagen stroke study. Arch Phys Med Rehabil. 1994;75:394–8.

2. Norouzi-Gheidari N, et al. Effects of robot-assisted therapy on stroke rehabilitation in upper limbs: systematic review and meta-analysis of the literature. J Rehabil Res Dev. 2012;49:479–96.

3. Wu J, et al. Robot-assisted therapy for upper extremity motor impairment after stroke: a systematic review and meta-analysis. Phys Ther. 2021;101: pzab010.

4. Rowe JB, et al. Robotic assistance for training finger movement using a Hebbian model: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2017;31:769–80.

5. Israel JF,et al. Metabolic costs and muscle activity patterns during robotic- and therapist-assisted treadmill walking in individuals with incomplete spinal cord injury. Phys Ther. 2006;86:1466–78.

6. Wolbrecht ET, et al. Real-time computer modeling of weakness following stroke optimizes robotic assistance for movement therapy. In: Proceedings of the 3rd international IEEE/EMBS conference on neural engineering. 2007. p. 152–8.

7. Takahashi K, et al. The efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute post-stroke hemiplegia: an exploratory randomized trial. Stroke. 2016;47:1385–8.

8. Takebayashi T, et al. Impact of the robotic-assistance on upper extremity function in stroke patients receiving adjunct robotic rehabilitation: sub-analysis of a randomized clinical trial. J Neuroeng Rehabil 2022; 19: 25

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