従来の神経筋電気刺激とパルス幅を比較的大きくとった刺激法の比較について 〜虚血性収縮、筋力適応、不快感、疲労等について〜

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2023.09.29
リハデミー編集部
2023.09.29

<抄録>

 神経筋電気刺激は機能回復や筋力・持久力向上を目的としたアプローチ方法である。特に神経筋電気刺激は、比較的短いパルス幅(0.5msec以下)を低周波(20〜50Hz)で,末梢神経と筋肉の接合部を刺激する手法である。基本的に末梢神経を介した筋肉の収縮は、生理学的に適切で、ランダムな順序で末梢の運動単位を動員する。したがって、神経筋電気刺激を実施した際には、確実に時間経過に伴う末梢のトルクの低下として定義される収縮誘発性疲労が出現すると言われている。一方、より高い周波数、より広いパルスを利用する神経筋電気刺激は、パルス幅を1msec、周波数は100Hz付近で刺激する方法も近年採用されている。これらの刺激方法は、末梢神経を介した刺激方法とは異なり、中枢経路を介して収縮を発生させる中枢トルクにより収縮誘発性疲労を軽減される方法として開発された。ただし、これらの手法の違いが、収縮誘発性疲労に対して、どの程度与えるかどうかは明らかでない。本コラムにおいては、刺激パラメーターの違いが虚血性収縮、筋力適応、不快感、疲労等に与える影響について解説を行う。

1. 従来の神経筋電気刺激とパルス幅を比較的大きくとった刺激法の違いについて

 本コラムでは、神経筋電気刺激(NMES)の二つの異なるアプローチ、従来のNMES(CONVNMES)と広いパルス幅・高周波数のNMES(WPHFNMES)を比較し、それぞれが筋収縮疲労、筋力適応、および知覚不快感に対してどのような影響を与えるかを確認する。NMESは、神経や筋肉に電気刺激を与えて筋収縮を引き起こし、機能の回復や筋力・持久力の向上を目指す技術である。CONVNMESは、短いパルス電流を低周波数で供給し、筋肉または神経の運動軸索を刺激することで筋収縮を引き起こす。しかし、この方法では筋収縮の疲労が大きいという問題がある。一方で、WPHFNMESは、広いパルス幅と高周波数を使用して筋収縮を引き起こす。これにより、生理的に適切な方式で筋収縮を引き起こし、疲労を軽減することを目指す。

 以前の研究の中から導き出された主要な仮説(理論形態)としては、WPHFNMESが収縮疲労を低減し、筋力を向上させることで、一方、CONVNMESがNMESセッション中の不快感を少なくすることとされている。これらの仮説が真であるかについて先行研究を辿ることで確認する。

 臨床試験においては、短期・長期研究では、収縮疲労と知覚不快感においてCONVNMESとWPHFNMES間に有意な差はないと多くの研究で報告報告されている。しかし、対象者の中でも特に鋭敏に結果に影響を与えた「レスポンダー」と呼ばれるサブセットにおいては、WPHFNMESが収縮疲労性を減少させたとされている[1, 2]。この「レスポンダー」は、中枢または反射経路を介して収縮を生成する能力がある一部の対象者を指している。しかしながら、収縮疲労と筋力適応についてのエビデンスの質(研究デザインの質)は全体的に低いという報告もあり、新たな研究によってこれらの結論が変わる可能性があるため、現状の知見は慎重に解釈すべきである[3]。

 また、先行研究においても、収縮疲労については、CONVNMESとWPHFNMESの間に有意な差は見られなかった[1, 4. 5, 6]。しかしながら、これらの二つのNMESタイプでは、収縮疲労の原因となるメカニズムが異なる可能性が指摘されている[5]。また、WPHFNMESの使用で収縮疲労を軽減するには、NMESの周波数と運動軸索の興奮性に関するトレードオフが存在し、これらの最適なパラメータはまだ明らかになっていないとされている。

まとめ

 理論的には、WPHFNMESが、CONVNMESに対して、疲労が少なく、かつ感覚入力にも優れていると、考えられてきた。しかしながら、これらの刺激方法に反応する対象者はあくまでも一部であり、総合的に解釈すると、パラメーターが収縮疲労と知覚不快感に与える影響は軽微であるものと思われた。ただし、中枢的な変化については、これまでの研究においても多くは検討されていない。また、現在、公表されている研究論文自体も研究デザインの正確性を検討するPEDRO scaleにおいて、点数が中等度から低度のものが多く、今後の試験によっては結果が変わる可能性もある。今後も、注視すべき分野であることが示唆された。


参照文献

1. Wegrzyk J, Fouré A, Le Fur Y, Maffiuletti NA, Vilmen C, Guye M, et al. Responders to Wide-Pulse, High-Frequency Neuromuscular Electrical Stimulation Show Reduced Metabolic Demand: A 31P-MRS Study in Humans. PLoS One. 2015 Nov 1;10(11):e0143972. 

2. Wegrzyk J, Fouré A, Vilmen C, Ghattas B, Maffiuletti NA, Mattei J-P, et al. Extra Forces induced by wide-pulse, high-frequency electrical stimulation: Occurrence, magnitude, variability and underlying mechanisms. Clin Neurophysiol. 2014 Jul;126(7):1400–12. 

3. Schünemann HJ, JPT H, Vist GE GP, Akl EA SN, GH G. Chapter 14: Completing ‘Summary of findings’ tables and grading the certainty of the evidence. In: Higgins JPT, Thomas J, Chandler J, Cumpston M, Li T, Page MJ, Welch VA (editor. 

4. Neyroud D, Dodd D, Gondin J, Maffiuletti NA, Kayser B, Place N. Wide-pulse- high-frequency neuromuscular stimulation of triceps surae induces greater muscle fatigue compared with conventional stimulation. J Appl Physiol. 2014 May 15;116(10):1281–9. 

5. Martin A, Grosprêtre S, Vilmen C, Guye M, Mattei J-PP, Le Fur Y, et al. The Etiology of Muscle Fatigue Differs between Two Electrical Stimulation Protocols. Med Sci Sports Exerc. 2016 Aug 1;48(8):1474–84. 

6. Wegrzyk J, Ranjeva J-P, Fouré A, Kavounoudias A, Vilmen C, Mattei J-P, et al. Specific brain activation patterns associated with two neuromuscular electrical stimulation protocols. Sci Rep. 2017 Jun;7(1):2742. 

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