臨床でエビデンスを使用するためのガイドラインとは?

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2024.01.29
リハデミー編集部
2024.01.29

<本コラムの目的>

・ガイドラインについて理解する

・脳卒中ガイドラインの歴史について理解する


1. 医療における診療ガイドラインとは

 医療における診療ガイドラインとは、『健康に関する重要な課題について、医療者と提供者(ここでいう対象者)の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書』と定義されています。


コラム エビデンス総体とは

 「研究論文などのエビデンス(科学的根拠)を系統的な方法で収集し、採用されたエビデンスの全体を評価し、統合したもの。介入とアウトカムの組み合わせごとにまとめられる」とされています。これらを参考に、医療者および対象者が治療選択等の意思決定を行います。


 診療ガイドラインは、それぞれの病気や障害に対して、標準的と考えられている治療方針を最新のエビデンスに基づきまとめたものです。したがって、診療ガイドラインに目を通すことで、医療者は世界中で行われている研究の結果、推奨されている治療法を認知することができます。最新の治療、その中でも効果が確保されている治療法を自身で文献検索をし、膨大な時間が必要だと思います。効率よく対象者に最良の治療を提供するためにガイドラインを利用することが推奨されています。

 しかしながら、診療ガイドラインは専門的な知識がなければ、その内容を理解するのは難しいです。ですから、対象者が診療ガイドラインを見て、自身にあった治療を選択することは難しいです。したがって、最近は対象者が見て理解できる、専門的な知識を噛み砕いた『対象者用の診療ガイドラインも作成され始めています。

 診療ガイドラインで推奨されている診療内容は、現段階でもっとも有効な治療法です。しかし、患者さんに対してその治療を受けるべきと強制するものではありません。あくまでもガイドラインは基準の1つです。臨床現場では個々の状況(患者さんの意思や生活環境など)を考慮した上で、患者さんと主治医との意思決定の際の判断材料として使用されています。

2. 日本におけるガイドラインの歴史

 脳血管障害に関して、米国においては1994年ごろからAmerican Heart Association(AHA)のStroke Councilを中心にいくつかの診療ガイドラインが作成されてきました。また、英国においても、Royal College of Physiciansが中心となって2000年にNational Clinical Guidelines for Strokeが作成され、刊行されました。このように、2000年前後からこのように世界各国において、ガイドラインの作成が活発化されました。

 さて、その頃、日本の状況はどうだったのでしょうか。当然のように日本にもガイドラインは存在せず、先進的な研究者や臨床家は、海外のガイドラインをそのまま利用しようと導入を検討していました。しかしながら、欧州とは医療に関わる法律や使用されている薬剤なども異なり、そのまま利用するには、障壁等も多いと考えられていました。

 また,2000年前後の当時は、日本における脳血管障害の発症や死亡率が心筋梗塞よりも多いこと等、世界の疾患分布の傾向とは若干異なる部分や、脳卒中の病型頻度も異なる等、世界のガイドラインをそのまま利用するリスクも考えられてきました。そこで、日本人による、日本人のための、日本独自のエビデンスを重視した脳卒中治療ガイドラインの作成が多くの識者の中で議論され始めました。

 1999年10月の日本神経治療学会理事会にてこの点が討議され、2000年3月の日本脳卒中学会理事会においても日本の脳卒中治療ガイドラインの作成が承認され、その作成が開始されることとなりました。これらの動きとほとんど同時に、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本精神神経学会、日本神経治療学会、日本リハビリテーション医学会の5学会と厚生労働省においても、ガイドラインを作成する動きがあり、それらのメンバーもガイドライン作成に関わり、脳卒中合同ガイドライン委員会が作成され、大きなうねりが生まれました。

 その結果、2004年に本邦で初めてとなる脳卒中治療ガイドラインが作成され、公表されるに至りました。つまり、日本の脳卒中医療において、初めてのガイドラインが作成されました。


参照文献

引用文献

1. Minds ガイドラインライブラリ作成マニュアル2020 ver3.0. https://minds.jcqhc.or.jp/s/manual_2020_3_0


参考文献

1. 正門由久.脳卒中治療ガイドライン−リニューアルと今後の課題−. Jpn J Rehabil Med 2007; 44: 465-469, 2007

2. 内山真一郎. "脳卒中治療ガイドライン 2009." 日本老年医学会雑誌 48.6 (2011): 633-636.


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