亜急性期と急性期の大脳皮質におけるネットワークの特徴の違いについて(3) 〜亜急性期と急性期の大脳皮質におけるネットワークの特徴の違いについて〜

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.10.09
リハデミー編集部
2023.10.09

<抄録>

 亜急性期と急性期の大脳皮質におけるネットワークの特徴の違いについてついて、Linらの研究を解説する。亜急性期の被験者9名と慢性期の被験者6名を対象に、EEGを使用したコヒーレンス分析を行った。結果として、両群の患者において特にデルタ帯域における前頭葉、頭頂葉、後頭葉の結合に有意な相互作用が見られた。これは高次運動皮質、特に前頭頭頂ネットワークが手の操作に関与し、脳卒中後の病期や活動の特徴によって影響を受けることを示唆している。また、デルタコヒーランシーは注目されており、上肢運動能力の改善に重要な役割を果たす可能性が示された。さらに、慢性期の患者の方が回復期よりもより強固なネットワークを持つ可能性が示唆された。

1. 亜急性期と急性期の大脳皮質におけるネットワークの特徴の違いについて

 このテーマについては、Linら[1]が結果を報告している。彼らは亜急性期の対象者9名と、慢性期の対象者6名をリクルートし、脳波(EEG)におけるコヒーレンス分析を用いて、能動的、受動的、運動イメージを実施するといった条件の違いで、手指の把持動作時の大脳皮質のネットワークの違いについて、検討を行っている。結果としては、両群の全対象者に対する機能的結合を分析するためのコヒーレンス解析により、デルタ、低アルファ、高アルファ、低ベータ、高ベータ、ガンマ帯域の機能的結合において、前頭葉、頭頂葉、後頭葉の結合に有意な相互作用を認めた。具体的には、運動前野、一次運動野、一次感覚野から前頭葉、頭頂葉、後頭葉に結合するいくつかの結合の強度は、低α、高α、低β、高βの各帯域において、亜急性期の対象者の方が、慢性期の対象者よりも低いことが示された。

 全ての対象者における解析において、特にデルタ帯域における前頭葉、頭頂葉、後頭葉に関連するかなりの数の結合に有意な相互作用が認められていた。この結果は、手の操作に強く関わっていると言われている前頭頭頂ネットワークを代表とした高次運動皮質におけるネットワークを示しており、脳卒中を発症してからの病期や能動的、受動的、運動イメージといった活動の特徴によって、影響を受けることが明らかとなった。前頭頭頂ネットワークは運動計画と実行に関与し、実際の能力に応じた運動の習性に伴う学習行動計画を提供することが先の研究で示されている[2]。これらからも、この結果に関して、妥当性が主張されている。

特に、近年では、EEGを用いたコヒーランス解析において、デルタコヒーランシーが注目されている。デルタコヒーランシーは比較的太く、長い大脳皮質におけるネットワークにおける神経活動を調整する際に、重要な役割を果たす活動の指標として注目されている。特に、これらの指標は、注意や意欲といった文脈の調整において、重要であることも先の研究で示されている[3]。したがって、彼らは研究結果について、手の動きを制御する際に働く前頭頭頂ネットワークにおける運動計画と実行と実際の能力に応じた運動の習性に伴う学習行動計画における注意や意欲の調節機構が、脳卒中を発症してからの病期や能動的、受動的、運動イメージといった活動に影響を与え、それらが各時期の上肢運動能力の改善のメカニズムの一つとして、機能している可能性を示唆した。

 さらに、彼らは、上記にもあるが、運動前野、一次運動野、一次感覚野、および前頭葉、頭頂葉、後頭葉に関連するいくつかの結合強度は、低α、高α、低β、高βの各帯域において、亜急性期の被験者の方が慢性期の被験者よりも低かった事実についても見解を述べている。α帯は、皮質の興奮と抑制の交互状態を反映していると考えられ、後者は運動過程と密接に関係している[4,5]。これらについては明確な答えは出されていないが、回復期よりも慢性期の方が、大脳皮質の状態が安定し、より強固なネットワークを作り出し、残存機能を示している可能性を筆者らは語っている[1]。

まとめ

 脳卒中後の回復において、自然回復の影響を受ける亜急性期とその後の慢性期においては、上肢を用いた特異的な課題を実施中の大脳皮質下のネットワークのインタラクションは明らかに異なる特徴を示すことが示唆された。特に、上肢の運動運動障害に対し、アプローチを実施する際には、皮質脊髄路の障害に目が行きがちだが、前頭頭頂後頭葉のネットワークについても観察を行い、その観点からも予後予測も必要になるかもしれない。


参照文献

1. Lin, Y, Jiang, Z, Zhan G, Su, H, Kang, XY, Jia, J. Brain network characteristics between subacute and chronic stroke survivors in active, imagery, passive movement task: a pilot study. Front. Neurol. (2023) 19: 1143955

2. Schulz, R, Koch, P, Zimerman, M, Wessel, M, Bönstrup, M, Thomalla, G, et al. Parietofrontal motor pathways and their association with motor function after stroke. Brain. (2015) 138:1949–60

3. Cassidy, JM, Wodeyar, A, Wu, J, Kaur, K, Masuda, AK, Srinivasan, R, et al. Low-frequency oscillations are a biomarker of injury and recovery after stroke. Stroke. (2020) 51:1442–50. 

4. Ulanov, M, and Shtyrov, Y. Oscillatory beta/alpha band modulations: a potential biomarker of functional language and motor recovery in chronic stroke? Front Hum Neurosci. (2022) 16:940845.

5. Zrenner, C, Kozak, G, Schaworonkow, N, Metsomaa, J, Baur, D, Vetter, D, et al. Corticospinal excitability is highest at the early rising phase of sensorimotor micro-rhythm. NeuroImage. (2023) 266:119805.

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