脳卒中後に生じる上肢運動障害の回復に上縦束は関与するのか?(1)

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.11.03
リハデミー編集部
2023.11.03

<抄録>

 本コラムにおいては、健常人の上肢運動計画における頭頂葉と前頭葉の相互作用、白質束の重要性、特に上縦束typeⅠとtypeⅡ線維の役割について述べている。また、脳卒中患者の上肢運動障害とリハビリテーションの関連についても触れている。頭頂葉と前頭葉のネットワークと上縦束typeⅠ、Ⅱ線維は、上肢運動パフォーマンスと関連しており、神経メカニズムの一部であると報告されている。しかし、これらの神経線維に対するリハビリテーションプログラムの影響については、明確なスタンダードがあるわけではなく、まだまだ議論の必要があると指摘されている。特に、脳卒中後のリハビリテーションプログラムにおいて、上縦束typeⅡのDiffusion Tensor imagingにおけるFA値が増加したという研究結果が一部の研究者によって示されたが、その解釈には賛否両論があり、鵜呑みにできないとされている。

1. 脳卒中後に生じる上肢運動障害の回復に上縦束は関与するのか?

 健常人においては、上肢の運動計画のための情報伝達、視覚運動情報の統合、高知運動制御の仲介に、頭頂葉と前頭葉のネットワークにおける相互作用が重要であると言われている[1]。これらの脳内のプロセスは、上肢の正しい目標指向型の動作に必要であると言われている。また、リーチング動作のオンライン制御に必要なアクション・リプログラミングが何らかの原因で阻害された場合、頭頂葉と頭頂葉のネットワーク内の白質束の微細構造が障害されていないことが重要な役割を果たすことも明らかになっている[2]。このようなインタラクションに関与する前頭葉と頭頂葉のネットワークには、上縦束におけるtypeⅠ線維とtype Ⅱ線維が関与していると報告されている[3]。

 解剖学的に、上縦束のtypeⅠ線維は上頭頂小葉と内側頭頂皮質(これらは後頭頂皮質の一部である)から前頭前野や運動前野といった二次運動野を繋ぐ繊維である[4, 5]。上縦束のtype Ⅱ線維は上縦束のtypeⅠ線維に対して、腹側及び側方を走行し、下頭頂小葉と前頭葉のより前方の領域(上前頭回)を繋いでいる[4]。脳卒中患者では、上肢の運動機能の残存能力は通常皮質脊髄路の損傷の程度によって説明されることが多いが、近年、それだけでは不十分であるとも考えられている。生活期の対象者を対象とした横断研究においては、頭頂-前頭連合野が、運動機能にどのように寄与しているかを調べた研究はほとんど見当たらない。

 その中でも、Schulzら[6]は、生活期の脳卒中後に上肢麻痺を有した対象者において、上肢の運動予後の一部は、上縦束に属する頭頂葉から前頭前野のネットワークの不完全性によって説明できることを示した。また、Moultonら[7]の研究では、運動予後不良と関連する領域には、上縦束のtypeⅠが発生する後部頭頂皮質が含まれていたと報告している。さらに、Hordacreら[8]は、安静時の機能的MRIを用いて、重度の上肢運動障害を有する対象者では、同側頭頂前頭前野のネットワークの機能的な結合が高いほど、運動能力が高いことを示している。

 これらの研究結果を統合すると、頭頂葉から前頭葉のネットワークとそれに関わるであろう上縦束typeⅠ、Ⅱは、上肢運動のパフォーマンスを向上させる行動学的に関連した神経メカニズムであると考えられる。しかしながら、これら、上肢の運動パフォーマンスに影響を与えうる神経線維に対して、リハビリテーションプログラムが影響を与えることができるのか、は非常に興味深いところである。Jacquemontら[9]らは、脳卒中後に上肢運動障害を呈した対象者に対して、リハビリテーションプログラムを実施したところ、損傷側半球の上縦束typeⅡのDiffusion Tensor imagingにおけるFA値が有意に増加したと報告した。筆者らは、この有意な変化を介入による神経線維のコネクティビティの向上と述べている。ただし、Diffusion tensor imagingにおけるFA値の変化が介入の前後で起こることについては、賛否両論あり、この結果については、議論が必要であると思われた。


参照文献

1. Parlatini V, Radua J, Dell'Acqua F, Leslie A, Simmons A, Murphy DG, et al.. Functional segregation and integration within fronto-parietal networks. NeuroImage. (2017) 146:367–75.

2. Rodríguez-Herreros B, Amengual JL, Gurtubay-Antolín A, Richter L, Jauer P, Erdmann C, et al.. Microstructure of the superior longitudinal fasciculus predicts stimulation-induced interference with on-line motor control. Neuroimage. (2015) 120:254–65.

3. Thiebaut de Schotten M, Dell'Acqua F, Valabregue R, Catani M. Monkey to human comparative anatomy of the frontal lobe association tracts. Cortex. (2012) 48:82–96.

4. Petrides M, Pandya DN. Projections to the frontal cortex from the posterior parietal region in the rhesus monkey. J Comp Neurol. (1984) 228:105–16.

5. Schmahmann JD, Smith EE, Eichler FS, Filley CM. Cerebral white matter. Ann N Y Acad Sci.(2008) 1142:266–309

6. Schulz R, Koch P, Zimerman M, Wessel M, Bönstrup M, Thomalla G, et al.. Parietofrontal motor pathways and their association with motor function after stroke. Brain. (2015) 138:1949–60.

7. Moulton E, Magno S, Valabregue R, Amor-Sahli M, Pires C, Lehéricy S, et al.. Acute diffusivity biomarkers for prediction of motor and language outcome in mild-to-severe stroke patients. Stroke. (2019) 50:2050–6. 

8. Hordacre B, Lotze M, Jenkinson M, Lazari A, Barras CD, Boyd L, et al.. Fronto-parietal involvement in chronic stroke motor performance when corticospinal tract integrity is compromised. NeuroImage Clin. (2021) 29:102558

9. Jacwuemont T, Valabregue R, Daghsen L, Moulton E, Zavanone C, Lamy JC, et al. Association between superior longitudinal fasciculs, motor recovery, and motor outcome after stroke: a cohort study. Front Neurol. (2023)14: 1157625

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