痙縮について④ −脳卒中後の病態生理について−

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.11.17
リハデミー編集部
2023.11.17

<本コラムの目標>

・痙縮に関する病態を理解しよう

・病態を理解することの意味を考えよう

1)脳卒中後に発症する痙縮の病態について

 『病態を理解して、リハビリテーションプログラムを考えなさい』。この言葉、学会や有名な先生のセミナーなどに行くとよく耳にしませんか?今回のコラムでは脳卒中後に発症する痙縮の病態*について考えていきましょう。


*ワンポイント 病態生理とは? 

 人がなんらかの疾患にかかったときに、身体機能や心理機能がどのような状態になっているのか、またそれらの状態が異常な場合、その原因はどこにあるのか、そういった身体・心理の現状や、その原因の総称を病態整理と呼びます。そして、それらを解明する学問を病態生理学と呼びます。リハビリテーションを行う上で、病態生理について、考察することが重要であり、全てのスタート地点になると考えられています。なぜなら、その疾患にかかった対象者の身体や心理にどのようなことが起こっているのか、今後どんなことが起こるのか(予後予測)、その点が理解できていないと、どのようなリハビリテーションが必要になるかがわからないからです。


 痙縮は、筋緊張の亢進を引き起こす上位運動ニューロン症候群に含まれる症状の一つです。錐体路(皮質脊髄路)や錐体外路の神経線維に病変や損傷があることで、筋緊張に異常をきたします。痙縮は筋肉に含まれる筋紡錘の局所的に起こる過剰な活性によって生じると言われています。しかしながら、末梢組織にある筋紡錘が単独で異常な動きをするわけではなく、それらの反応には中枢神経系の損傷や機能異常が関与すると考えられています。

 痙縮は、神経反射を介して出現する痙縮(伸長反射の亢進)と非反射性痙縮と呼ばれる菌収縮に関連する痙縮の2つに分けられると言われています。上位運動ニューロンの損傷は、脳と脊髄の関係性を破壊し、脊髄反射の脱抑制をもたらすと言われています(引用文献1)。対象者の筋肉を他動的(パッシブ)にストレッチ(伸長)した際に、筋紡錘からIa群求心性を介して、脊髄後角への感覚入力が生じます。従来ならば、感覚入力によりα運動ニューロンが活性化された際も上位運動ニューロンによって抑制がなされ、伸長反射の異常等は出現しません。しかし、上位運動ニューロンが損傷していた場合、Ia求心性線維から入力された感覚入力によるα運動ニューロンの活性を抑制する機構が失われているため、結果、筋肉が過剰に収縮するといった伸長反射の更新が認められます(引用文献2)。

 さらに、伸長反射の亢進に対して抑制性の脊髄介在ニューロン、Ia介在ニューロン、Ib介在ニューロン、レンショー細胞といった、上位運動ニューロン損傷により、抑制機構を失う可能性も示唆されている(引用文献3)。これらから、上位運動ニューロンの損傷により、下行性の抑制機構が失われることによって、感覚ニューロンの活動電位が通常時よりも増加するために、伸長反射が亢進すると言われています(引用文献4)。

 次に、筋肉の力学的特性の変化によって生じる痙縮の悪化についても解説します。痙縮の悪化に、筋線維や結合線維などの末梢組織が関与していることを示す研究がいくつか存在します(引用文献5. 6)。慢性的な痙縮は、筋肉のサルコメア数が減少し、結合組織の割合を増加させると言われています。軟部組織が硬く変化することにより、他動的なストレッチによる刺激を筋紡錘により効率的に伝えることにより、出現する伸長反射がさらに大きくなる可能性が示唆されている(引用文献6)。

 これらの研究から、痙縮の病態を理解すると、上位運動ニューロンにおける可塑性を導くようなリハビリテーションプログラムと、抹消のサルコメアを増加させるようなプログラムの立案と利用が求められます。詳細は、後の痙縮に対するプログラムの項目で具体的な例をあげます。


**ワンポイント 上位運動ニューロンとは? 

 大脳皮質(脳)から脊髄全角細胞に指示を伝える運動を司る錐体路(皮質脊髄路)のことを指します。


参照文献

1. R. Bhimani, L. Anderson Clinical understanding of spasticity: implications for practice Rehabil Res Pract, 2014 (2014), p. 279175

Nardone, M. Schieppati. Reflex contribution of spindle group Ia and II afferent input to leg muscle spasticity as revealed by tendon vibration in hemiparesis. Clin Neurophysiol, 116 (2005), pp. 1370-1381

2. J.B. Nielsen, C. Crone, H. Hultborn. The spinal pathophysiology of spasticity–from a basic science point of view. Acta Physiol, 189 (2007), pp. 171-180

Mukherjee, A. Chakravarty Spasticity mechanisms - for the clinician

3. Front Neurol, 1 (2010), p. 149

4. T. Sinkjaer, E. Toft, K. Larsen, et al. Non-reflex and reflex mediated ankle joint stiffness in multiple sclerosis patients with spasticity. Muscle Nerve, 16 (1993), pp. 69-76

5. J.C. Tabary, C. Tabary, C. Tardieu, et al. Physiological and structural changes in the cat's soleus muscle due to immobilization at different lengths by plaster casts. J Physiol, 224 (1972), pp. 231-244

6. K.E. Hagbarth, G. Wallin, L. Lofstedt. Muscle spindle responses to stretch in normal and spastic subjects. Scand J Rehabil Med, 5 (1973), pp. 156-159

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