痙縮について⑦ −筋や腱の短縮を合併した痙縮に対する外科的治療について−

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.11.27
リハデミー編集部
2023.11.27

<本コラムの目標>

・痙縮に対する外科的治療の存在を知る

・どのような対象者がこれらの治療を受ける可能性があるのかを知る

・これらの治療の効果に関するエビデンスについて知る

1)痙縮に対する外科的治療の実際と対象者について

 痙縮の治療には経口薬や筋肉注射等、さまざまな治療法があります。しかしながら、これらの侵襲性の低い医療行為がうまくいかない場合もあります。特に、長期間の強い痙縮により、筋や腱が萎縮・短縮してしまっている対象者については、効果がない場合が見られます。そう言った対象者には、外科的な治療が考慮されることがあります。外科的治療は、①整形外科的手術、②脳神経外科的手術の二つに大きく分けることができます。ここでは、それぞれについて、解説を行います。


①整形外科的手術

 整形外科的手術では、痙縮によって短縮・萎縮してしまった筋肉を延長したり、その筋に変わる他の部位の筋肉を移行するなどの手法が用いられます。具体的な例をあげると、アキレス腱延長術や後脛骨筋腱移行術などの治療によって、内反尖足、足趾変形などの障害を直接的に矯正できることが一般的によく知られています。

 障害がそれ以上、回復も悪化もしない固定機にあり、侵襲の少ない既存の治療を実施しても十分な効果が得られなかった症例で、かつ関節の変形や拘縮がなく、ある程度活動性が保たれていた対象者が、治療の対象とされることが多いです。ただし、手術による効果のエビデンスは不十分であり(後の効果のエビデンスの項で詳細に解説します)、術後であっても、術部もしくは術部以外に残存する変形や筋の萎縮・短縮、さらには異常な行動パターンなどが影響して、再度痙縮が増強することも少なくないと言われています。したがって、整形外科的手術だけで治療が完了するわけではなく、術後のマネジメントにおいて、経口薬や筋肉注射等のマネジメントが必要と言われています。


②脳神経外科的手術

 整形外科的手術が筋肉に対する直接的な治療であったことに対し、脳神経外科的手術は、末梢の神経に対する治療が中心になります。具体的な例をあげると、末梢神経縮小術等が挙げられます。この手術は、上位ニューロンの損傷により、継続的に刺激が入り過活動となった筋肉を支配する末梢神経の太さを、外科的な手技によって、従来の2割から4割程度の太さに削減する手技です。具体的には、上腕二頭筋の痙縮であれば、1)筋皮神経の神経束を電気刺激によって、運動神経と感覚神経に区別する、2)50Hzの電気刺激で上腕二頭筋が収縮する分枝の2/3から3/4を凝固切除する、という手順で手術が行われると言われています。

 また、選択的後根切除術という手法も痙縮の制御に利用されます。この手術は、感覚刺激が脊髄に伝わる後根を切除することにより、過剰な介在ニューロンの脱抑制を予防し、前角細胞の過活動を減弱し、痙縮を低下させる方法と言われています。脳性麻痺等の疾患に使われることが多いと言われています。

2)痙縮に対する外科的治療のエビデンスについて

  痙縮に対する外科的治療に関する臨床研究はあまり実施されていません。ほとんどの臨床試験は、症例報告やケースシリーズです。今まで実施された臨床研究では、痙縮によって生じた内反尖足に対する分割前脛骨筋の腱移行術やアキレス腱の身長術が実施されています。研究には、脳卒中、脳性麻痺、脳損傷といった痙縮を発生する複数の疾患を有する数名の対象者が参加していました。これらの対象者に対する後ろ向きのケースシリーズでは、術後、歩行機能の向上、装具の必要性の減少、通常の靴を履けるようになった等の変化があったとされています(引用文献1)。

 また、上肢の手術では、上腕二頭筋に対する腱移行術、長母指屈筋の腱延長術、回内筋群の剥離術等がケースシリーズで良好な結果を残していると報告されています(引用文献2)。また、ある研究によると、痙縮、可動域等の歩行に影響を与える要素に関して、ボツリヌス毒素よりも脛骨神経切断術の方が優れた効果を示したとの報告もあります(引用文献3)。いずれにせよ、エビデンスは非常に少なく、今後の研究が望まれています。


参照文献

1. Urban PP, Wolf T, Uebele M, Marx JJ, Vogt T, Stoeter P, et al. Occurence and clinical predictors of spasticity after ischemic stroke. Stroke. 2010; 41:2016–2020.

2. Pinzur MS, Wehner J, Kett N, Trilla M. Brachioradialis to finger extensor tendon transfer to achieve hand opening in acquired spasticity .J Hand Surg. 1988; 13:549–552.

3. Rousseaux M, Buisset N, Daveluy W, Kozlowski O, Blond S. Comparison of botulinum toxin injection and neurotomy in patients with distal lower limb spasticity. Eur J Neurol. 2008; 15:506–511.

前の記事

痙縮について⑧ −脳卒...

次の記事

痙縮について⑥ −痙縮...

Top