痙縮について⑥ −痙縮に対する医学的治療(経口薬について)−
<本コラムの目標>
・痙縮を治療しなければならない理由を知る
・痙縮がどんな生活の問題を起こしているかを知る
・痙縮に対する経口薬のことを知る
*ワンポイント 痙縮とは? 『痙縮に含まれる3つの現象』
・筋緊張の亢進:筋肉を伸ばした際に生じる反応が亢進します。つまり、伸長反射の程度を状況に応じて調整する機能が低下している状態
・痙攣:通常、複数の筋肉や関節が関与し、不随意で持続的に微細な収縮と弛緩を繰り返す現象
・クローヌス:筋肉が急激に伸ばされるとその刺激に反応して、該当の筋肉がリズミカルに収縮と弛緩を不随意に繰り返す現象
1)痙縮*が原因となる生活の問題点と治療が必要な理由について
中枢神経系の疾患に罹患した後、痙縮が生じた場合、特定の筋肉が強く収縮した状態が続きます。例えば、脳卒中を発症した患者さんでは、麻痺側の手を強く握り込んでしまします。長く、手を握り込んだ状態が続くと、指が手のひらに食い込み褥瘡を発症したり、手垢がてのひらに溜まり、衛生面において問題が生じます。また、手足が痙縮によって曲がってしまったりすることで、衣服の着脱もとても難しくなります。これらの問題点に加え、歩行障害や強く筋肉が収縮することによって生じる痛みによる睡眠障害等、生活上のとても多くの問題が生じると言われています。これらから、一部の研究者から痙縮自体が、日常生活活動の自立度を低下すると報告しています(引用文献1)。
さらに、症状の重い痙縮を放置しておくと、脳卒中から時間が経つにつれ、激しい痛み、拘縮、関節の亜脱臼および脱臼、末梢神経障害(緊張が高まった筋肉、関節のアライメントが崩れ、組織が末梢神経を圧迫することによって生じる障害)、褥瘡を引き起こす可能性があるとも報告されています(引用文献2)。これらの理由から、痙縮に対する治療は、対象者のQuality of life(QOL)を改善し、上記に挙げた二次的な合併症を予防するためには不可欠だと言われています**。なお、痙縮の治療法には様々なものがあります。理学療法や作業療法等のリハビリテーション、経口薬剤や筋肉への薬剤施注等があります。
*ワンポイント 痙縮は悪者…でしかないのか??
本文で解説した通り、痙縮は多くの問題を起こします。ただし、特に下肢に関しては、膝伸展等、体重を支える筋肉に痙縮が起こることが多く、痙縮によって、移乗や起立、歩行ができる対象者も中にはいます。こういった対象者の場合、痙縮に対する強い治療を行い、筋緊張が弛緩してしまい(力が入らなくなってしまい)、生活行為が送れなくなる可能性もあります。従って、対象者の状況をよく評価した上で、痙縮の治療を行うことが重要です。
2)代表的な医学的治療について
一般的に、医学的治療には、経口薬剤、腱を切るなどの手術による対応、さらに、筋肉への薬剤施注等(注射等で薬剤を筋肉に注入する)等があります。本項ではそれらについて、簡単に解説を行います。これらを療法士が知ることで、医師が痙縮を問題としているのか、さらには、治療が実施されているか否かを理解することができます。
①経口薬剤(口から飲むお薬について)について
経口薬剤も様々な種類があります。表1に薬の種類をまとめます。カルテ等にて、薬剤を調べる際に、痙縮に影響を与える薬剤が処方されているか、注意しておきましょう。
参照文献
Chang, EY, et al. A review of spasticity treatments: pharmacological and interventional approaches. Critical Reviews™ in Physical and Rehabilitation Medicine, 2013, 25.1-2.
引用文献
1. Cochrane Injuries Group. Cochrane Database of Systemic Reviews: plain language summaries. Bethesda, MD: National Center for Biotechnology Information, US National Library of Medicine; Not enough evidence about the effects of drugs used to try and reduce spasticity in the limbs after spinal cord injury. c2009
2. Gorgey A, Chiodo A, Gater D. Oral baclofen administration in persons with chronic spinal cord injury does not prevent the protective effects of spasticity on body composition and glucose homeostasis. Spinal Cord. 2009;48:160–5.
3. Awaad Y, Rizk T, Siddiqui I, Roosen N, Mcintosh K, Waines GM. Complications of intrathecal baclofen pump: prevention and cure. ISRN Neurol. 2012;2012:575168.
4. Simon O, Yelnik AP. Managing spasticity with drugs. Eur J Phys Rehabil Med. 2010;46:401–10.