ガイドラインから脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチを考える

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.02.05
リハデミー編集部
2024.02.05

<本コラムの目標>

1. Canadian Stroke Best Practices Recommendationsの内容を知る

2. 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションのエビデンスを知る

3. エビデンスから海外と日本のリハビリテーションの違いを知る


用語の定義

早期:脳卒中発症後6ヶ月未満の患者

後期:脳卒中発症から6ヶ月以上経過した患者


Canadian Best Practice Recommendationにおけるエビデンスのレベル

A: 対象者に日常的に治療を行うことを強く推奨します。治療が重要な健康アウトカムを改善することを示す十分な証拠があり、有益性が有害性を大幅に上回ると結論づけています。

B: 対象者に日常的に治療を行うことを推奨します。治療が重要な健康アウトカムを改善し、有益性が有害性を上回ると結論づける少なくとも公正な証拠があります。

C: 治療の継続的な提供を推奨しません。治療が健康アウトカムを改善するというエビデンスはわずかにあるが、推奨するには至らないです

D:対象者に治療を行うことに反対します。治療が無効であるか、または有害性が有益性を上回るという証拠があります

1. 脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションの一般原則について

・対象者は、運動制御を強化し、感覚運動機能を回復させるために有意義・魅力的・反復的・(難易度および強度が)漸進的に適応さる課題特異的・目標指向的な訓練を受けるべきです[エビデンスレベル:早期-レベルA;後期-レベルA]

・訓練は、機能的な作業中に対象者の麻痺手の使用を促し、日常生活動作に必要な部分的または全体的な技能(例えば、折り畳み、ボタン付け、流し入れ、持ち上げ)を模擬するように設計されるべきです[エビデンスレベル:初期-レベルA;後期-レベルA]

2. 脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションの個別のアプローチについて

・対象者の視野内で適切かつ安全なさまざまな位置に上肢を置くことを含む可動域運動(受動および能動補助)を提供する必要がある[エビデンスレベルC]

・対象者の麻痺手の感覚・運動の回復を促進するために、メンタルプラクティスに取り組むよう促すべきです[エビデンスレベル:早期-レベルA;後期-レベルB]

・対象者の麻痺手における運動障害を軽減し、機能を改善するために、手首と前腕の筋肉を対象とした機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation: FES)を検討すべきです[エビデンスレベル:早期-レベルA;後期-レベルA]

・従来のConstraint-induced movement therapy(CIMT)またはmodified Constraint-induced movement therapy(mCIMT)は、能動的な手関節伸展が20度以上、能動的な中手骨指節骨間(Metacarpo Phalangeal: MP)関節伸展が10度以上で、感覚障害がほとんどなく、認知機能が正常である対象者群に対して考慮すべきです[エビデンスレベル:早期-レベルA;後期-レベルA]

・ミラーセラピーは、非常に重度な麻痺手を有する対象者に対する運動療法の補助として考慮すべきです。また、麻痺手の運動機能とADLの改善に役立つ可能性があります[エビデンスレベル:初期-レベルA;後期-レベルA]

・感覚入力(例:経皮的電気神経刺激[TENS]、鍼治療、バイオフィードバック等)は、麻痺手の機能改善について、補助的なアプローチとして考慮することができます[エビデンスレベルB]。

・バーチャルリアリティは、ヘッドマウントやロボットインターフェイスのような没入型技術とゲーム機器のような非没入型技術の両方を含み、フィードバック・反復・強度が保証された課題指向型トレーニングの補助手段として使用できます[エビデンスレベル:初期-レベルA;後期-レベルA]。

・対象者の入院中や自宅における麻痺手の使用を促すGraded Repetitive Arm Supplementary Program (GRASP)等、療法士が提供するアプローチの合間に麻痺手の能動的な使用を増やすことを目的とした補助的なプログラムを考慮すべきです[早期-エビデンスレベルB ; 後期-エビデンスレベルC]。

・軽度から中等度の上肢障害を有する患者に対しては、握力改善のために筋力トレーニングを考慮すべきです[エビデンスレベル: 早期-レベルA;後期-レベルA)。また、筋力トレーニングは筋緊張や疼痛を悪化させません[エビデンスレベルA]

・麻痺手の運動機能を改善するために、麻痺手の単独の上肢トレーニングよりも両上肢を用いたトレーニングを行うことは推奨されていません[エビデンスレベルA]

・反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)および経頭蓋直流電流刺激(transcranial Direct Current Stimulation: tDCS)などの非侵襲的脳刺激は、上肢治療の補助として考慮できます[エビデンスレベルA(rTMS);エビデンスレベルB(tDCS)]

まとめ

様々な臨床研究の結果に対するシステマティックレビューとメタアナリシスの結果に加え、専門家や対象者が意見を交わし、示した推奨度がガイドラインで示されています。これらの結果を念頭に置き、臨床研究で示された結果を臨床の中に活かすことが重要だと思います。


参照文献

1. Gladstone, David J., et al. "Canadian stroke best practice recommendations: secondary prevention of stroke update 2020." Canadian Journal of Neurological Sciences 49.3 (2022): 315-337.

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