エビデンスを臨床でどのように使用するのか?(1)〜Evidence based practiceのフレームを利用する〜

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2024.02.12
リハデミー編集部
2024.02.12

<本コラムの目標>

1. Evidence-based practiceのフレームを理解する

2. エビデンスによる圧政について理解する

3. エビデンスの使い方を理解する

1. Evidence-based practiceのフレームについて

 臨床において、標準的なアプローチを提供するための意思決定のフレームにEvidence-based practiceがあります。Haynesら[1]は、Evidence-based practiceを行う上で必要なコンセプトとして、エビデンスの他に「対象者の希望と行動」、「対象者の病状と周囲を取り巻く環境」があります(図1)。

Evidence-based practiceというと、『エビデンスが確保されているアプローチしか、使用してはいけない』と考えている方が稀にいらっしゃいます。これは大きな誤解です。むしろ、この考え方は『エビデンス至上主義』や『エビデンスによる圧政』という言葉で、行わないよう、強く注意喚起がなされています。

 Evidence-based practiceは、エビデンスを基盤としつつ、対象者の希望と行動を鑑みつつ、アプローチ決定に関する意思決定を行なっていきます。例えば、脳卒中後、軽度な上肢麻痺を有する対象者に対して、ガイドラインが推奨しているのは『課題指向型アプローチ』『Constraint-induced movement therapy(CI療法)』があります。


エビデンスによる圧政

 医療の分野において、治療法に関して、確実なエビデンスが確立されているものがあれば、その方法を利用すれば良いですが、エビデンスが不明確であったり、不十分な分野においては、エビデンスを適応することが非常に困難です。Brownleeら[2]は、エビデンスが不足している分野の医学的サービスを『グレーゾーン』と定義しています。こういったグレーゾーンが大きい分野においては、『対象者の希望と行動』といった要素を重要視する必要性があります。これらを無視し、エビデンスのみが正義、といった医療者による誤認が、誤ったサービスの過剰な提供や使用不足につながると考えられています。


ただし、対象者が『たくさん練習するのは辛い』『もっと触って欲しい(課題指向型アプローチやCI療法は療法士の介助なく、対象者の方が単独で練習を行うことが多いです)』といった希望を持っていたとします。その際、これらを無視して、『エビデンスがあるので、これをやっておけば良いのです』とアプローチを療法士の一方的な想いで提供してはいけません。

 こういった希望があった場合は、対象者の方に対して、その療法を実施した際の『利益』と『害』について丁寧に説明し、対話する必要があります。つまり、療法士の一方的な想いを押し付けることも問題ですが、対象者の方の誤解や想いをそのまま受け取ることも問題です。

ここでいう利益というのは、麻痺手の機能および生活における使用行動が改善することです。害は、練習時間が長い、運用を間違えると肩の痛み等過剰使用に関わる問題が生じる等でしょうか。これらの医療者が考えるリスクに加え、対象者の方がネガティブに感じてしまう部分でしょうか。これらを天秤にかけ、対象者の方が療法の害を誤認していないかどうかについて、丁寧に確認し、誤解が解けたなら、アプローチを提供します。

 ただし、それでも拒否なさる場合は、他の推奨度が低いアプローチの利益と害を含め、説明を行い、対象者の方が納得して、実施できるアプローチが選択できるように対話を進めていきます。しかしながら、上肢麻痺に対するリハビリテーションに関するエビデンスは非常に多く、明確なものが多いため(課題指向型アプローチやCI療法もエビデンスが明確なものの代表格)、このような手順を踏むことが多いですが、さらにグレーゾーンが多い領域では対話の実施方法も変わってきます。それらについては、次回のコラムについて、解説を行なっていこうと思います。



参照文献

1. Haynes RB,et al: Physicians' and patients' choices in evidence basedpractice. BMJ .324(7350):1350,2002.

2. Brownlee S,et al: Evidence for overuse of medical services around the world . Lancet.390(10090):156―168,2017.

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