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Wolf Motor Function Testの脊髄損傷における応用
Wolf Motor Function Test(WMFT)は本来脳卒中片麻痺の評価用に開発されましたが、不全頚髄損傷など上肢に麻痺が残存する例に対して応用された報告もあります。脊髄損傷では、レベルや障害像によって上肢麻痺の様相が異なるため標準的評価法の確立が難しい側面があります。ただし、上肢機能の疾患特異的な改善のマイルストーンを示すといった要素を持たないWMFTが、上肢のパフォーマンスに特化して、評価が可能なことは容易に想像ができます。特に、不全頚髄損傷による四肢麻痺(Tetraplegia)の上肢機能訓練においてWMFTがアウトカムに用いられた例が過去にもあります。
たとえばBeekhuizenら(2008)は、慢性期の不全頚髄損傷者24名を対象に、上肢リハビリテーション介入(反復的な課題志向型訓練=MPと経皮的電気感覚刺激=SSの組み合わせ)のランダム化比較試験を行い、その効果指標の一つとしてWMFTを実施しています[1]。
介入前後での評価では、訓練を受けた群(特に課題練習と感覚刺激を併用した群)においてWMFTのタイムスコアが有意に短縮し、機能評点も向上しており、対照群と比較して上肢機能の有意な改善をWMFTで捉えたことが報告されています。
Jebsen-Taylor手指機能テストやピンチ力測定でも有意な改善が見られたことから、WMFTは四肢麻痺患者の手・上肢機能変化を他の評価と一致して反映していると解釈できます。またHoffmanら(2007)の症例報告では、不全頚髄損傷者に対する両手同時課題練習と電気刺激併用による訓練前後で脳皮質の再組織化を検討し、介入効果の臨床指標としてWMFTを用いています。その結果、症例ではWMFTタイムが短縮し動作のキレが向上するとともに、TMSによる大脳皮質マッピングでも対応する変化が認められ、WMFTで捉えた機能向上が中枢神経可塑性と関連している可能性が示唆されています[2]。
もっとも、脊髄損傷領域でのWMFT利用はまだ少数例であり、その妥当性・信頼性も十分には検証されていないのが現状です。頚髄損傷では上肢麻痺とともに体幹や下肢の麻痺、感覚障害、痙性など多彩な症状が存在し、単純に脳卒中片麻痺における上肢機能評価を当てはめることが難しいケースもあります。
例えば完全頚髄損傷で手指の随意運動が不能な場合、WMFTはほとんどの課題が実施不可能となり評価適用外です。また、不全麻痺であっても巧緻性より筋力低下が主な場合や、連合反応や痙性が顕著な場合など、WMFT評点の解釈に注意が必要なケースもあります。それでも、上肢に一定の随意運動が残存する不全麻痺例ではWMFTが機能評価の一選択肢となり得ることを先行研究は示唆しています
現に、米国のリハビリ専門家グループによる推奨では、頚髄損傷者の上肢評価にWMFTを用いることはエビデンスが限定的ながら選択肢として「合理的」と位置づけられています(SCI EDGEの所見)[3]。
したがって、脊髄損傷領域でWMFTを使用する際は、対象の選定(不全麻痺で手指の随意運動が認められること)や評価結果の解釈に慎重を期しつつ、今後のエビデンス集積に繋げていく姿勢が求められます。
以上、WMFTの概要から信頼性・妥当性、臨床応用および研究での活用まで包括的にレビューしました。WMFTは約30年にわたり改良と検証が重ねられてきた歴史を持ち、上肢リハビリテーション領域で極めて重要な評価ツールです。その適切な理解と活用により、臨床・研究の双方で中枢神経疾患患者の機能回復に一層貢献できるものと期待されます。
参照文献
1. Beekhuizen KS, Field-Fote EC (2008). Sensory stimulation augments the effects of massed practice training in persons with tetraplegia. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 89(4), 602-608.
2. Hoffman LR, Field-Fote EC (2007). Cortical reorganization following bimanual training and somatosensory stimulation in cervical spinal cord injury: a case report. Physical Therapy, 87(2), 208-223
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