脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF
<抄録>
上肢運動障害は,脳卒中後に高頻度で見られる障害の一つであり,対象者のQuality of life(QOL)を低下させる要因の一つである.現在,様々なアプローチが開発されている中で,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)というものが存在する.このアプローチは非侵襲的なアプローチ方法で,幅広い対象者が利用できる方法の一つである.この方法は,神経可塑性を高め,機能回復や運動学習をより効率的にする方法とされている.本コラムにおいては,これらの方法関する現状の研究について,3回にわたり解説を行なっていく.第三回は脳卒中後に生じる上肢の運動障害を含む様々な症候に対して,ENTF therapyがどのような効果をもたらすのか,臨床研究を中心に解説を行なっていく.
1.脳卒中後に生じる様々な症候に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)の現状について(3)
脳卒中後に生じる様々な症候に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)は,ニューロリハビリテーションにおいて,併用療法および追加療法として,多くの場面で利用されている.先のコラムでも解説を行なったが,様々なメカニズムによって,アポトーシスを減弱し,神経可塑性を促すことが示されている.しかしながら,その中でも多くの研究者は,脳卒中後の酸化ストレスによる二次的な細胞の損傷に対する保護効果に注目している者がも一定数あるようだ.
さて,ENTF therapyを用いた臨床研究を紹介する.例えば,2017年にCichonら1は,ENTF therapyの効果を測るために,両群ともに一般的なリハビリテーションを提供した上で,一群にはENTF therapyを実施し,対称群には実施せずに比較検討を行なった.その結果,ENTF therapyを実施した群において,有意な抗酸化活性要素が示されたと同時に,日常生活動作の自立度,Mini-mental State Examinationを測定した一般知的面およびGeriatric Depression Scaleで測定した精神面において有意な改善を示したと報告している.また,臨床におけるパラメーターの改善量は,抗酸化活性要素作用のレベルと有意な正の相関を認めたと報告もしている.さらに,同じ筆者は,48名の脳卒中後の対象者について,4週間の一般的なリハビリテーションを提供し,それらに加えて,ENTF therapyを実施した群と,しなかった群において比較検討を実施した.その結果,ENTF therapyは,脳卒中後の対象者の神経可塑性の程度に関与する脳由来神経栄養因子(BDNF)やサイトカインレベルを有意に増加し,機能回復の促進の原因となりうる因子を発生できる可能性を示唆している.さらに,上記に加えて,ENTF therapyは,mRNAレベルでの遺伝子発現の有意な増加にも関連している可能性が示唆された.また,臨床的なアウトカムにおいては,NIH Stroke Scale
,Barthel Indexで測定した日常生活活動,modified Rankin Scale,Mini-mental State Examinationを測定した一般知的面およびGeriatric Depression Scaleで測定した精神面において有意な改善を示したと報告している.
2.脳卒中後に生じる上肢運動障害に対する超低周波,低強度電磁場を周波数特異的に照射するアプローチ(Electromagnetic Network Targeting Field therapy; ENTF therapy)の現状について
上記において,ENTF therapyの様々な効果について述べた.ここで脳卒中後に生じた上肢運動障害に対するENTF therapyの効果について述べる.Weisingerらは,亜急性期の中等度から重度の上肢麻痺を有する対象者に対して,二重盲検化ランダム化比較試験を用いて,ENTF therapyの効果を検証している.この研究では,非侵襲的なブレインコンピューターインターフェイスに基づくENTF therapyを実施する群としなかった群を比較している.このアプローチでは,ENTF therapy群は,この機器を装着しながらアクティブなアプローチを40分間5日間8週間に渡り,実施している.対照群は同様の振る舞いをENTF therapyなしに実施している.その結果,ENTF therapy群が対照群に比べて,有意にAction research arm test,Box and Block test,等のアウトカムにおいて,改善を認めた.また,介助量全般を評価するModified Rankin Scaleについても同様に,有意な改善を示したと報告されている.
まとめ
本コラムでは3回に渡ってENTF therapyについて解説を行なった.本邦においては,まだまだ知名度の低い療法であるものの,多くの臨床研究において結果が示されている.仮に本邦に輸入された際には,ENTF therapyの有する回復メカニズムを明確に理解したうえで,工学機器を用いたリハビリテーションに従事できることが望ましいと思われた.