脳血管障害の臨床分類について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.02.24
リハデミー編集部
2023.02.24

<抄録>

 脳血管障害には様々な病型が存在する.本コラムにおいては,National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)によって作成されたClassification of Cerebrovascular Diseases Ⅲ(CVD-Ⅲ)について解説を行う.

1.脳血管障害の臨床分類

 脳血管障害の病型分類として,世界中で最も知られている分類は1990年にNational Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)によって作成されたClassification of Cerebrovascular Diseases Ⅲ(CVD-Ⅲ)1が挙げられる.CVD-Ⅲは脳血管障害の臨床分類を,大項目として,A)無症候性,B)局所脳機能障害,C)血管性認知症,D)高血圧性脳症,に分類している.リハビリテーションを提供する対象となる脳血管障害を有する対象者は,B)局所脳機能障害に分類されており,それぞれを病型,発生機序,臨床経過といった点から解説されている.

2.CVD-Ⅲの分類について

 CVD-Ⅲの分類について表1に示す.B)局所脳機能障害は,一過性脳虚血発作(Transient ischemic attacks: TIA)と脳卒中の2つに分類されている.それぞれの分類について,以下に記載する.

1)一過性脳虚血発作(TIA)

 TIAsは脳血管の虚血に起因する脳または網膜の一時的な機能消失で起こる発作とされている.ある一部の血管系の虚血に起因し,虚血が生じた領域に応じた短時間の症状が出現するが,持続時間は長くなく,永続的な症状は残存しない.現在,現在のTIAの定義では,画像上で梗塞病変があるTIAは存在しないとされている.ただし,臨床所見においるTIAは脳梗塞の前兆として重要と考えられている2.TIA発症後90日以内に脳梗塞を発症した症例のうち,約半数は初回TIA発症後48時間以内に脳梗塞を発症したと報告されている3.加えて,メタアナリシスによる検討では,TIA発症後90以内に脳梗塞を発症する危険性は15-20%であるとも報告されている.これらから,臨床においてTIAの観察と対応は非常に重要になることがわかる.

2)脳卒中

 CVD-Ⅲにおける脳卒中は,脳出血,くも膜下出血,脳動静脈奇形からの頭蓋内出血,脳梗塞に分けられている.特に脳梗塞には,多くの機序や臨床カテゴリーが設定されている.本項においては,脳卒中における脳梗塞に対して,詳細を解説する.

①アテローム血栓症脳梗塞

 頭蓋外あるいは頭蓋内主幹動脈のアテローム硬化により起こる脳梗塞である.主な機序としては,以下の二つが考えられている.1つ目は,血管内に血栓が蓄積し,最終的に血管内腔が閉塞する症候である.2つ目の機序は,血栓あるいはプラークの断片が塞栓源となるものである.他の病型よりもTIA後に生じる確率が高い反面,梗塞巣は脳梗塞の中では小さく,時に心原性脳塞栓症との区別が困難な場合もある.

②心原性脳塞栓症

 心臓に関連する血栓が確認でき,その他の脳梗塞の原因が明らかでない場合に,診断がつく場合が多い.主要な心臓に関わる原因としては,発作性および持続性の心房細動または粗動,僧帽弁や大動脈弁に関わる疾患,心筋梗塞やうっ血性心不全があげられる.これらに共通する点として,心臓の不調により血液還流の乱れが生じた結果,生まれた血栓が脳梗塞の原因となっている.

③ラクナ梗塞

 大脳深部に存在する大血管から分岐した穿通枝動脈に由来する病巣に生じることがほとんどである.特に,病巣の対象となる深部白質や脳幹は,穿通枝動脈以外に当該領域に酸素・栄養を供給する側副路が発達していない.したがって,穿通枝が血栓や塞栓によって閉塞することで,支配領域に応じた小さな拘束が生じることが多い.多くの場合で,梗塞層が1.5cm以内に収束することが多く,基本的に機能予後も良好な場合が多いと言われている.

④その他の梗塞

 上記①〜③の原因の他に原因が特定されているその他の脳梗塞については,非アテローム硬化性の血管症,過凝固状態や血液疾患(本態性血小症等)と言った症候があげられる.また,その他原因が不明の脳梗塞も多々認められる.上記の診断に当てはまる検査において,異常が認められなかったり,他の原因を類推できる既往歴・現病歴も有さない場合がしばしばある.そう言った場合は,原因の特定ができなくとも,医師や看護師と確実にコミュニケーションをとり,多くの原因に想いを馳せ,それらに対するリスク管理を徹底しつつ,リハビリテーションに臨むことが重要になる.



参照文献

1.Special report from the National Institute of Neurological Disorders and Stroke. Classification of cerebrovascular diseases III. Stroke 21: 637-676, 1990.

2.Okada Y: Transient ischemic attack as a medical emergency. Front Neurol Neurosci 33: 19-29, 2014. 

3.Giles MF, Rothwell PM: Risk of stroke early after transient ischaemic attack: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol 6: 1063-1072, 2007.

4.Wu CM, et al: Early risk of stroke after transient ischemic attack: a systematic review and meta-analysis. Arch Intern Med 167: 2417-2422, 2007. 

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