脳血管障害の作業療法に必要な予後予測概論(上肢,ADL,歩行を中心に)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.10
リハデミー編集部
2023.04.10

<抄録>

 予後とは,「疾患や症状,障害に対する医学的な今後の見通しに関する経験や科学的な証拠(エビデンス)に基づいた見解」を意味する言葉である.予後予測とは文字通り,上記を予測することに他ならない.リハビリテーション領域において,予後予測は2つの観点から非常に重要である.第1に,リハビリテーションプログラムを開始する際に必要な目標設定を行う際に,エビデンスに基づいた予後予測ができることで,より実現可能性の高い具体的な目標を立てることができる.第2に,対象者が未来の人生におけるプランを立てる上で,その解像度を上げるためのマイルストーンとなるよう予後予測から導き出された情報を利用することが考えられる.これらの観点から,脳血管障害の作業療法を実践する上で予後予測は非常に重要な位置づけにあることがわかる.また,予後予測は,特に対象者の疾患罹患後の経過が不透明である急性期において,より重要となることが多い.ここでは,特に作業療法の領域で関わる事の多い,上肢機能障害,日常生活活動,歩行機能に関して代表的な予後予測研究を紹介する.

1.上肢機能障害に関する代表的な予後予測法

 予後予測は非常に複雑で,画像や臨床所見等,多くの側面から実施することができる.本項においては,特に臨床所見から得られるパラメータを用いた予後予測をいくつか紹介していく.予後予測を進める上で,急性期の臨床評価が重要な役割を果たすことが多い.例えば,Nijlandら1は,72時間以内に随意的な手指の伸展と肩の外転を認めた対象者の98%がある程度の巧緻動作(実用手としての機能)を獲得していると報告している。一方、この期間に随意的な該当動作が出現しなかった場合、約25%がある程度の巧緻動作(実用手としての機能)を獲得していると報告した。特に72時間以内に、手指の伸展および肩の外転が出現した対象者の60%がAction research arm testにて6ヶ月後には、満点が取れるようになると報告した。

 次に,Winterら2は,211名の脳血管疾患患者を対象に発症後72時間以内と発症後6ヶ月後にFugle-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目を測定し,その関係性を確認したところ,全対象者の約70%において,「発症から6ヶ月後のFMAの上肢項目における変化量予測値=0.7×(66-発症後72時間以内に測定したFMAの上肢項目)+0.4」の式でおおよそ予測できることを明らかにした.予測できなかった約30%の対象者は①手指随意進展が不可,②顔面麻痺がある,③下肢麻痺が重度,④重度なタイプの脳血管疾患の病型という特徴があったと報告している.

 最後に,van der Vilet3の予後予測を紹介する.これは上記の2つの予後予測とは異なり,掲示的なFMAの上肢項目のデータが集まれば集まるほど予測精度が向上するといった特徴を持つ予後予測法である.この研究では,予後予測モデルを作成し,それらから導き出されたデータと実測値の相関を調べたところ,発症1週間の検討にて相関係数0.84,2週間にて0.86であったとしている.このモデルは下記のURL(http://emcbiostatistics.Shinyapps.io/LongitudinalMixtureModelFMUE,2023年1月11日現在)で利用することができる.

2.日常生活活動における予後予測

 日常生活活動の予後に影響を与える因子として,Veerbeekら4は,システマティックレビューの中で,6つの精度の高いコホート研究における分析結果から,初期の神経症状,上肢機能,年齢が日常生活活動の予後を予測する上で重要と述べている.

 これらの特徴を踏まえた上で,日常生活活動のアウトカムであるFunctional Independence Measure(FIM)を用いた実践的な予後予測のモデルをKoyamaら5が報告している.彼らはFIMの回復曲線は対数に類似した経過を辿ると仮説を立て,ある2点のFIMの値を対数式に当てはめることで,寄与率0.85〜0.95といった高い精度で近い将来のFIMの値を予測できることを示した.これらの具体的な使用方法については,図1に示すこととする.

3.歩行における予後予測

 リハビリテーションプログラムにおいて,歩行は理学療法士の仕事,と認識する作業療法士は多いかもしれない.しかしながら,歩行機能をはじめとした移動機能は,日常生活活動のいわば繋ぎであり,これらが自立することにより多くの対象者が意味のある作業を実現できる可能性がある.これらを鑑みると,作業療法士が歩行に関する簡単な予後予測も理解しておくことは重要なことである.Veerbeekら6は「FMAの下肢項目の満点−発症時のFMAの下肢項目の点数(最大予測回復値)」と「発症から6ヶ月後のFMAの下肢項目の値−発症時のFMAの下肢項目の点数」の関係性を調べた際,202例の対象者のうち,175名(86%)がこの法則に適合したと報告している.さらに,これらの対象者の平均の下肢の改善度は,最大予測回復値の64%であったとしている.また,Moroneら7は,介助歩行の自立には,発症時のMotoricity index,年齢,Trunk Control test,肥満,が関連し,階段症候の自立には,Barthel index, Motoricity index, 半側空間無視の有無が関連していると報告している.


参照文献

1.Nijland RHM, et al: Presence of finger extention and shoulder abduction within 72 hours after stroke predicts functional recovery. Early prediction of functional outcome after stroke: the EPOS Short study. Stroke 41: 745-750, 2010

2.Winters C, et al. Generalizability of the proportional recovery model for the upper extremity after an ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair 29: 614-622, 2015

3.Van der Viet R et al. Predicting upper limb motor impairment recovery after stroke: A mixture model. Ann Neurol 87: 383-393, 2020

4.Veerbeek JM, et al. Early prediction of outcome of activities of daily living after stroke: a systematic review. Stroke 42: 1482-1488, 2011

5.Koyama T, et al. A new method for predicting functional recovery of stroke patients with hemiplegia: logarithmic modeling. Clin rehabil 19: 779-789, 2005

6.Veerbeek JM, et al. Is the proportional recovery rule applicable to the lower limb after a first-ever ischemic stroke? Plos One 2018: 0189279, 2018

7.Morone G, et al. Watch your step! Who can recovery stair climbing independence after stroke? Eur J Phys Rehabil Med 54: 811-818, 2018

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