Canadian best practiceが示すガイドラインにおける『回復期リハビリテーション病棟』に関するエビデンスについて(1)〜回復期リハビリテーション病棟の歴史と作業療法士のあり方〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.06.02
リハデミー編集部
2023.06.02

<抄録>

 脳卒中を罹患し、急性期病院に搬送された対象者は、救命処置が一段落するとリハビリテーション病棟に転院する。リハビリテーション病棟は、日本独自の皆保険下のシステムであり、世界でも希少なリハビリテーションを専門に実施する病院である。このシステムに関するエビデンスがCanadian best practiceが示すガイドラインにおいて示されている。本コラムにおいては、数回において、回復期リハビリテーション病棟のあり方や、その影響力について解説を行う。第1回は回復期リハビリテーション病棟の歴史とあり方について解説を行っていく。

1.回復期における作業療法士のあり方とは

 本邦の作業療法士のほとんどは公的保険下において運営されている医療機関に所属している。しかしながら、この状況は世界的に見ると異例である。米国やオーストラリアといった作業療法先進国における作業療法士の多くは地域にて、作業療法を提供している。特に米国では、職業に従事している作業療法士の約半分が学校に勤務するなど、本邦における背景とは全く異なると言える。そういった世界的にも稀な医療制度の中で、本邦の作業療法士に求められる役割も海外におけるそれとはギャップのあるものだと思われる。ただし、そういった特殊な環境だからこそ、世界的にもきめ細やかなリハビリテーションおよび作業療法を提供できている現状があるのかもしれない。本項では、回復期の療法士の現状や役割について、簡便にまとめ、解説を行なっていく。

2.回復期病棟における作業療法士の働き方

1)回復期リハビリテーション病棟の歴史

 回復期リハビリテーション病棟とはリハビリテーションに特化した機能を持つ回復期リハビリテーション病棟を主機能として有する病棟のことを指す。回復期リハビリテーション病棟とは、2000年4月に実施された診療報酬改定おいて「回復期リハビリテーション病棟入院料」が導入され、運営が開始されたリハビリテーションに特化した病棟のことを言う。リハビリテーション病棟では、対象者の障害の重症度に応じて、数ヶ月間、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーション専門職種が1日最大3時間(9単位)に渡り1対1のリハビリテーションを提供する。こういった医療体制は、公的医療保険制度を持つ日本特有のものであり、世界でも有数のシステムといっても過言ではない。

 現在の回復期リハビリテーション病棟のシステムの源流は、1998年頃から発展してきたものとされている。医師や各種療法士を病棟に専従配置し、リハビリテーション専門職種の他に看護師、社会福祉士等の他職種が関わるカンファレンスを定期で実施する中で、対象者の社会復帰を支援するようなシステムが有志の医師らによって構築されたと言われている。

これらを元に、前述の回復期リハビリテーション病棟入院料が導入された後、看護及び介護、その他職種を加えたチーム医療を提供する体制に加え、病棟ADL加算が認められたことから(2002年から2008年)、現在の対象者をチームで日常生活活動を中心に据えられたシステムの基盤が構築された。

 さらに度重なる診療報酬改定により、2008年からはリハビリテーション病棟におけるリハビリテーションの質の担保のための評価が導入され、2016年には質の担保および入院期間の適正化を意識したアウトカム評価も実施されるようになった。こういった変革の中で、限りある医療原資の中で、いかに効率的に対象者を自宅や地域といった社会に復帰させるのか、そういった部分が意識されてきた。

 これらの数多くの質的なテコ入れの結果、回復期リハビリテーション病棟における在院日数は右肩下がりに低下している3。この結果が、回復期リハビリテーション病棟のリハビリテーションプログラムの質的向上を示すものとは断定できないが、病棟を取り巻く様々なシステムや環境も含め、在院日数は減少している(同様に、退院時の指定アウトカムであるFunctional Independence Measureは特に変わっていない)3。また、近年では、医師、看護師、介護士、各種療法士(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)といった職種に加え、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、薬剤師といった職種が参画し、他職種による対象者中心の密な介入が実現したことにより、より社会資源を有効に利用した支援体系が発達した結果かもしれない。

まとめ

 第1回は、回復期病棟の歴史とその中で働く作業療法士のあり方について解説を行った。第2回は、回復期リハビリテーション病棟における作業療法士の役割について、解説を行っていく。


参照文献

1. 鳥沢伸大,他.急性期の作業療法.日大医誌78: 131-134, 2019

2. 松野悟之.脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向.理学療法科学37: 129-141, 2022

3. 回復期リハビリテーション病棟協会:回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書 令和元年(2019年)度版,2020

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