脳卒中患者に対するリハビリテーションにおける体幹トレーニングの効果について(2)〜脳卒中後の体幹に対するトレーニングの重要性とアプローチ方法の実際〜
<抄録>
リハビリテーションを進める上で、臨床においても「体幹トレーニング」の重要性を説く療法士は多い。ある療法士は、麻痺手に対するアプローチを実施する際でも「大木でも太い幹がなければ枝葉は伸びない」といったエピソードをあげて、そのトレーニングの重要性を説くこともある。特に伝統的な徒手療法では体幹に対する詳細なアプローチを重要視していることが多く、新人に対する教育現場でも取り上げられることが多いテーマである。これまでにもシステマティックレビューやメタアナリシス、ランダム化比較試験といった正確性の高い研究デザインを用いた研究においても、これらのテーマはよく扱われている。過去の研究では、体幹機能、評価等に用いられる特異的な活動のパフォーマンスを改善するといった結果が示されている。しかしながら、そのトレーニングが日常生活活動やQuality of life、その他のリアルワールドアウトカムにどういった影響があるかは不明な点が多い。本コラムにおいては、4回に渡り、これらのテーマについて、解説を行っていく。第2回は脳卒中後の体幹に対するトレーニングの重要性とアプローチ方法の実際について解説を行う。
1. 脳卒中後に生じる体幹機能の障害に対するトレーニングの重要性
脳卒中患者において、体幹機能が障害されると様々な活動に悪影響を及ぼすと言われている。体幹機能は、重力に対抗して座ることや、立位をとる際に、非常に重要な役割を担うと考えられている。体幹機能が維持されることで、ダイナミックな座位や立位をとることも可能になる。加えて、動的な活動においても体幹機能は重要な役割を担っている。例えば、Davisら1は、体幹機能が十分担保されていることが、歩行時の上体と下体の捩れ運動をスムーズとし、歩行の安定性を向上させると報告している。
臨床においても、肌感覚として体幹の機能はリハビリテーションを進める上でのマイルストーン(進み具合の指標)として、意識されることが多い印象がある。脳卒中を罹患した対象者は、体幹機能が十分保たれていることにより、ベッド上の起居動作等の基本動作、座位の保持、立位の保持等が可能になる。Santosら2の研究では、体幹機能とそれを利用する座位バランスは、どちらも日常生活における対象者の自律度と強い相関があると報告しており、日常生活活動の重要な予測要因であるとも考えられている3。従って、体幹機能に対するアプローチはリハビリテーションにおいても基礎的かつ重要なアプローチの一つであり、多くの研究者、臨床家もこれらの重要性を示唆している。
2. 具体的な体幹トレーニングの実際
体幹トレーニングの目的は、体幹の筋力と筋持久力を高めることで、体幹、頭部、四肢を選択的かつ協調的に動かすための基礎を構築することである。脳卒中に罹患した初期の段階では、安静度や体幹機能の低下から、体幹に対するアプローチは臥位や座位にて実施することが多い。これらのトレーニングの中で、体幹の保持に関わる多くの筋に刺激を入れつつ、最終的には座位や立位でのダイナミックなトレーニングに移行していく。これらを通して、適切な体重移動やバランスが安定している範囲内でのリーチ動作を獲得することに繋がり、それらを利用した日常生活活動の自立度の向上に繋がる。
先行文献においては、様々なアプローチが試行されている。多くの研究者が様々なアプローチの有効性を示しているが,それらを大別すると,1)コア・スタビリティ・トレーニング、2)電気刺激、3)体幹の筋力に対する選択的なトレーニング、4)座位、立位、リーチ練習、5)静的傾斜面トレーニング(傾斜面において、静的立位をとる練習)、6)不安定な地場における座位や立位練習、7)筋力トレーニング、の7つのアプローチに大別されている。7つの側面を鑑みると、理学療法士が役割を担う練習と、作業療法士が役割を担う練習がおおよそ分けられる印象がある。これらのトレーニングを理学療法士と作業療法士が同じものを実施するのではなく、それぞれの役割、得意な知識、技術を活かして役割分担することが円滑なチームアプローチに繋がる印象がある。
まとめ
第2回は、脳卒中を罹患した対象者に対する体幹トレーニングの重要性とアプローチ方法の実際について解説を行った。それらを実施する目的と具体的な7つのトレーニングのあり方について触れた。第3回は、7つのトレーニングの具体的な方法論について、解説を行っていく。
参照文献
1. Davis PM. Problems associated with the loss of selective trunk activity in hemiplegia. In: Right in the Middle. New York: Springer, 1990:31-65.
2. Santos R, Dall'Alba S, Forgiarini S, Rossato D, Dias A, Forgiarini L. Relationship between pulmonary function, functional independence, and trunk control in patients with stroke. Arquivos de Neuro-Psiquiatria 2019;77(6):387-92
3. Verheyden G, Nieuwboer A, De Wit L, Feys H, Schuback B, Baert I, et al. Trunk performance aIer stroke: an eye catching predictor of functional outcome. Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry 2007;78:694-8.
4. Ada L, Dean C, Mackey F. Increasing the amount of physical activity undertaken aIer stroke. Physical Therapy Reviews 2006;11:91-100.