脳卒中患者に対するリハビリテーションにおける体幹トレーニングの効果について(3)〜脳卒中後の体幹に対する7つのトレーニングの具体的方法〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.06.23
リハデミー編集部
2023.06.23

<抄録>

 リハビリテーションを進める上で、臨床においても「体幹トレーニング」の重要性を説く療法士は多い。ある療法士は、麻痺手に対するアプローチを実施する際でも「大木でも太い幹がなければ枝葉は伸びない」といったエピソードをあげて、そのトレーニングの重要性を説くこともある。特に伝統的な徒手療法では体幹に対する詳細なアプローチを重要視していることが多く、新人に対する教育現場でも取り上げられることが多いテーマである。これまでにもシステマティックレビューやメタアナリシス、ランダム化比較試験といった正確性の高い研究デザインを用いた研究においても、これらのテーマはよく扱われている。過去の研究では、体幹機能、評価等に用いられる特異的な活動のパフォーマンスを改善するといった結果が示されている。しかしながら、そのトレーニングが日常生活活動やQuality of life、その他のリアルワールドアウトカムにどういった影響があるかは不明な点が多い。本コラムにおいては、4回に渡り、これらのテーマについて、解説を行っていく。第3回は、第2回にも取り上げた脳卒中後の体幹に対する脳卒中後の体幹に対する7つのトレーニングの具体的方法について解説を行う。

1. コア・スタビリティ・トレーニング

 コア・スタビリティ・トレーニングとは、体幹筋、すなわち骨盤および股関節帯、腰部、腹部、頸部、肩甲骨周囲の筋群に対し、等尺性収縮を促し、強化するトレーニングを指す1。例えば、仰臥位にて体幹捻りつつ、回旋筋を同時収縮させる方法や、四つ這い等の姿勢を使ったプランク等、その方法は様々である。しかしながら、脳卒中後の対象者は半側身体に麻痺を有する者も少なくないので、方法は工夫する必要がある。

2. 電気刺激

 電気刺激は、電気生理学的刺激を用いて、バランスに関与する体幹筋肉を刺激し、他動的な収縮を加えることで筋組織を促通するためのトレーニングである2。基本的には、電気刺激を運動域値にて実施することで、筋収縮を促し、筋肥大を目的とした使用方法と、感覚閾値にて刺激することで、麻痺を促通するための使用方法がある。

3. 選択的体幹トレーニング3

 体幹の上部(肩甲帯)と下部(骨盤帯)において、それぞれの運動方向の随意性、筋力を改善することを目的に、選択的に各々の動きを反復して促すトレーニング方法を指す.これにより、肩甲帯と骨盤の随意コントロールを向上させ、バランス時の制御を安定させるためのアプローチである。

4. 座位、立位、リーチ練習4

 文字通り、座位、立位において、外乱を加えた静的なバランス練習を行ったり、輪移動やターゲットに対するリーチ練習を通して、動的なバランス練習を繰り返し、実施していく練習である。体幹機能というよりも体幹を用いた活動における座位、立位の安定性を目的としたアプローチといった印象である。

5. 静的傾斜面トレーニング(傾斜面において、静的立位をとる練習)5

 静的傾斜面トレーニングとは、固定された傾斜面上で対象者が静的立位をとることで、自発的な体幹機能の静的な賦活を促すといった練習を指す.特に、その姿勢を保つことで、全身に関わる等尺性収縮を促すことを目的としている。

6 . 不安定な地場における座位や立位練習6

 不安定な地場における座位や立位の練習とは、バランスボールや常にバランス能力の調整が必要となるような不安定な地場の上で、静的または動的にバランスを保つ練習を指す。これらを通して、等尺、等張収縮の切り替え等、バランス保持に必要な練習を行うことを目的としている。実際の生活場面や、歩行する路面等を意識したアプローチが重要となる。

7. 筋力トレーニング

 上記の7つのトレーニングの要素を理解し、それらを含むアプローチを駆使し、脳卒中後の体幹における運動障害に対するアプローチを実施することが必要になる。

まとめ

 第3回は、脳卒中後に生じる体幹の運動障害およびバランス障害に対する7つのトレーニングの具体的な方法論について、解説を行った。これらの要素を含むトレーニングを眼前の対象者の病態に応じて、実施することで、対象者の日常生活活動に活きる体幹トレーニングが実現できる可能性がある。第4回は脳卒中後に体幹の運動障害を有する対象者に対するこれらのトレーニングのエビデンスについて、解説を行う。


参照文献

1. Yoo SD, Jeong YS, Kim DH, Lee M-A, Noh SG, Shin YW, et al. The eHicacy of core strengthening on the trunk balance in patients with subacute stroke. Journal of Korean Academy of Rehabilitation Medicine 2010;34:677-82.

2. Ko EJ, Chun MH, Kim DY, Yi JH, Kim W, Hong J. The additive effects of core muscle strengthening and trunk NMES on trunk balance in stroke patients. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 2016;40(1):142-51.

3. An S-H, Park D-S. The eHects of trunk exercise on mobility, balance and trunk control of stroke patients. Journal of Korean Academy of Rehabilitation Medicine 2017;12(1):25-33.

4. Ada L, Dean C, Mackey F. Increasing the amount of physical activity undertaken aIer stroke. Physical Therapy Reviews 2006;11:91-100

5. Fujino Y, Amimoto K, Fukata K, Ishihara S, Makita S, Takahashi H. Does training sitting balance on a platform tilted 10° to the weak side improve trunk control in the acute phase aIer stroke? A randomized, controlled trial. Topics in Stroke Rehabilitation 2015;23(1):43-9.

6. Karthikbabu S, Rao B, Manikandan N, Solomon J, Chakrapani M, Nayak A. Role of trunk rehabilitation on trunk control, balance and gait in patients with chronic stroke: a pre-post design. Neuroscience & Medicine 2011;2:61-7.

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