リハビリテーションにおける予後予測が必要な理由について

竹林崇先生のコラム
患者教育
リハデミー編集部
2023.08.07
リハデミー編集部
2023.08.07

<抄録>

 リハビリテーションを実施する上で、様々な技術や知識が必要とされている。一般的に多くの療法士は、麻痺や身体機能、高次脳機能障害に対する知識や治療技術そのものの研鑽に時間をかけることが多い。しかしながら、人の人生に寄り添うリハビリテーションには、それら治療技術以外にも多くのものが必要となる。近年、障害に対する知識や治療技術のほかに必要な知識の一つとして、予後予測もリハビリテーションを円滑に履行する上で、必要な技術と考えられている。本コラムにおいては、どうしてリハビリテーションを円滑に進めるために予後予測が必要なのかに関して、解説を行なっていく。

1. リハビリテーションにおける予後予測とは?

 予後予測とは、対象者のリハビリテーションを円滑に進めるために非常に重要なものである。この行為は、リハビリテーションを受ける対象者の身体機能や生活空間や環境の転帰が疾患発症後どのような経過を辿るかを予測するものである。予後予測という字面から、将来を予測し、対象者がどういった経過を辿るのか、そして、その予測が当たるか、外れるか、を検討する、一見未来予知的なものと思われがちである。しかしながら、その本質は全く異なるものである。

 予後予測を行う最たる理由としては、対象者の一般的、もしくは最低限の身体機能やその他周辺の回復曲線を理解した上で、それらを超え、より良いアプローチを提供するための基準について、リハビリテーションを提供する医療者が理解することにある。一般的に、療法士はたくさんの対象者の経過を経験することで,言語化できなくともなんとなく『この方は良くなりそうだな』『この人はよくならなさそうだ』といった印象を多かれ少なかれ持っている。ただし,これは経験に基づくものであり、『こういう特徴があるひとは予後が良い/悪い』といったように言語化できるものもあれば、『なんとなくそう思う』といったように言語化できないものもある。

この経験に基づく予後予測には、大きな問題点がいくつかある。まず、第一に自分が担当した対象者の経過の範囲でしか、予後予測ができないことが挙げられる。回復期リハビリテーション病院では、年間に多くて40-50名程度の対象者しか担当することができない。40-50名の対象者は個人的には多く感じるが、対象者の疾患や個別の病態のバリエーションを考えると数千,細部の違い等も含めると,もしかすると数万といったといった個別性があるかもしれない。また,個人の思い込み等の様々なバイアスの影響を受けているため,経験的な経過の記憶に関しても,客観性に乏しい側面もある。これらの背景から、例えば、自分の経験的に『よくならなさそう』と思っていた対象者が実は予後が非常に良い対象者である可能性や、『かなり良好な経過をアプローチによって作ることができている』と思っていたものが,実は一般的な予後を下回っている場合など,不確かな経験を基盤に予後予測を行った場合、客観性に乏しい,非常に正確性の低い介入を提供することになりかねない。つまり、自分の経験的に正しいと思っていた情報が,客観的には間違っている場合も少なくないことが考えられる。

 そこで,客観的なデータである過去の予後予測研究を用いて,客観性があり,正確性が確保された予後予測を行う必要性がある。例えば、リハビリテーションにおける予後予測で使われる過去の予後予測研究は、その時代になんらかのリハビリテーションを提供された多くの対象者の経過を記録したものである。それらを便宜上『一般的な予後』とし,それらに比べ,眼前の対象者がどのような経過を辿るのか,そして,過去のそれらの経過よりも,より良い予後を辿るために,どういった要因(治療,属性,その他)を考慮すべきなのか,といった点を理解し,より良好なアプローチを提供することが重要となる。

 つまり,予後予測とは過去の対象者を用いた研究を『一般的な経過』と位置付けし,それに比べて,眼前の対象者の病態を解釈し,それらの予後を超えていくために,どのような手続きを実施する必要があるのかを,病態解釈及びアプローチの工夫を実施していくことが重要である。

まとめ

 リハビリテーションにおける予後予測が必要な意味について、解説を行った。予後予測は未来予知ではなく、過去の客観的かつ正確性の高い予後予測研究の値を一般的な回復として、眼前の対象者にとって、より良いリハビリテーションを提供するために重要な手続きであることを解説した。次回は予後予測研究を用いた予後予測をどのように展開するのか、具体的な手続きについて解説を行う。

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