痙縮について⑨ −薬剤治療や外科術以外のリハビリテーションプログラムについて−

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.04
リハデミー編集部
2023.12.04

<本コラムの目的>

・医学的アプローチ以外の痙縮に対するアプローチを知る

・病態に応じた手法選択を考えられるようになる

1)薬剤治療や外科術以外のリハビリテーションプログラムとは?

 痙縮の原因について、前回のコラム『痙縮について④ −脳卒中後の病態生理について−

』においても紹介しましたが、1)痙縮の根源的な原因となっている上位運動ニューロン障害に対するプログラム,と2)痙縮を二次的に悪化させる末梢運動器に対するプログラム,を分けて考える必要があります。前者に関しては、基本的に脳の可塑性(脳の神経ネットワークを再構築したり、変化させたりすること)を促すことができるニューロリハビリテーション(Constraint-induced movement therapy [CI療法]やメンタルプラクティス等の運動イメージ療法等)を用いて、上位運動ニューロンのシステムを再構築すること必要となります。一方、後者については、根源的なリハビリテーションプログラムというよりは、現象に対する対症療法と言えるかもしれません。具体例としては、ストレッチや電気刺激療法、振動刺激療法等がそれらに当たります。本コラムにおいては、後者の対処的なプログラムについて、解説を行なっていきます。

 なお、痙縮へのリハビリテーションプログラムでは、過緊張を引き起こす可能性がある環境由来の有害刺激を除去することも挙げられます。例えば、痛みを伴う褥瘡や、膀胱膨満、尿路結石、尿路感染等、痙縮の重症度を高める可能性のある有害刺激を特定し、取り除くことは意外に重要だと言われています。対象者自身が痙縮が上がってしまう場面や、原因に対して、自覚できるようになることで、痙縮の長期的な管理において、医療者との協業の効率が上がるとも報告されています(引用文献1)。


*ワンポイント 対症療法とは? 

 国語辞典等を調べてみると、対症療法とは、『①病気の原因を除くのではなく、現れた症状たに応じて行う治療法、②物事の目前の状況に応じた処理の仕方』という二つの意味が記載されています。つまり、根源的・根本的な原因に対する治療ではなく、原因はそのままに、出てきている症状に対して、緩和目的でアプローチを行うという意味です。


①ストレッチ

 痙縮の管理には、痙縮を有する筋肉に対するストレッチがよく用いられます。また、スプリント等で、持続的に筋肉を伸長させるための道具として、スプリント/装具などを用いることもあります。ストレッチは、筋肉を伸ばすことにより、刺激された筋紡錘からIb線維やⅡ線維への入力された刺激がγ運動神経を抑制することにより、痙縮が低下すると考えられています。


②神経筋電気刺激

 近年、痙縮の制御において、神経筋電気刺激を拮抗筋**に対して、与えることで痙縮を有する筋の痙縮が低下すると言われています。ただし、その効果は短時間であることも言われています。これらの現象は、ゲートコントロール理論で説明されています。ゲートコントロール理論とは、脊髄に複数の刺激が入力された際、脊髄はより太い神経からの大きな刺激を優先的に受け取り、その他の刺激を抑制すると言われています。これに従い、侵害受容性入力を減少させる介在ニューロンの抑制によって、痙縮を低下させることができると言われています。


**ワンポイント 拮抗筋とは? 

 人間が関節を屈伸する際には、複数の筋肉が関与しています。ある関節運動を行う際に、その動きに主に関わる筋肉を主動筋と呼び、その反対の関節運動に関与する筋肉を拮抗筋と呼びます。例えば、肘の屈曲という関節運動に対して、主動筋肉は上腕二頭筋になりますし、拮抗筋は上腕三頭筋になります。これらの筋肉は、脊髄の抑制機構を使って、屈伸に合わせ、収縮と弛緩をなめらかに繰り返すことができるようにできています。痙縮に対するリハビリテーションプログラムを考案する際には、これらの筋肉の関係性が非常に重要になりますので、覚えておくと良いでしょう。


③振動刺激

 振動刺激は上記の電気刺激と同様に拮抗筋に刺激を与え、それにより緊張性振動反射を誘発し、痙縮筋の痙縮を低下させる方法と、痙縮筋に直接振動を与える方法があります。ここでは後者の痙縮筋に直接当てる方法について解説します。痙縮筋に直接振動刺激を5本程度実施します。これにより、30分後まで全角細胞の興奮性を示す電気生理学的指標であるF波を測定しています。その結果、振動を与えた筋肉の痙縮は有意に低下したと報告されています(引用文献2)。この結果から、明確なメカニズムは言及されていませんが、痙縮筋に直接振動を5分間当てることで、痙縮の抑制が可能だと考えられています。


参照文献

1. K.S. Sunnerhagen, G.E. Francisco Enhancing patient-provider communication for long-term post-stroke spasticity management Acta Neurol Scand, 128 (2013), pp. 305-310

2. 松元秀次.最新のリハビリテーション−痙縮のマネジメント−.Jpn J Rehabil Med, 45 (2008): 591-597

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