脳卒中後の亜脱臼と肩痛について④ 〜脳卒中後の肩痛のメカニズムについて〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.22
リハデミー編集部
2023.12.22

<本コラムの目標>

・肩関節の障害に関するメカニズムを知る

・障害のメカニズムを知った上で、プログラムを構築できる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)

1. 脳卒中後に生じる肩痛に関するメカニズムについて

 HSPに関しては、神経性由来の原因と末梢運動器由来の原因が存在することもあり、その障害のメカニズムは諸説提唱されています。そして、個々の対象者によって、その原因もさまざまなであることから、すべての対象者の原因を特定することは不可能であると考えられています。

 一般的な病因としては、脳卒中後に生じる運動障害(麻痺)に由来する筋緊張の低下および筋力低下、痙縮による筋痛、さらには感覚障害によって引き起こされる肩の構造的な損傷(感覚障害があることで、運動障害[麻痺]がある手を乱暴に扱ってしまったり、知らない間に、身体の下に危険な肢位のまま敷いてしまうなどによって、関節内の組織が障害されてしまう)が関連している可能性が考えられています。

 さて、多彩な原因をもつHSPですが、Ryersonら[1]によって、大まかな4つの痛みの原因に分別されています。4つの痛みの原因は、1)肩の不安定性に起因する関節痛、2)疼痛感受性の異常によって生じる痛み、3)複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome: CRPS)*、4)腋窩神経障害のような下位運動ニューロンに起因する痛み、に分けることができる。これらの臨床症状と、医師による診断等を参考に、多角的な観点から、HSPの原因を探ることが重要である。


*ワンポイント 複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome: CRPS)

中枢性の障害や外傷を生じた後、脳や脊髄による痛みの処理過程に異常を来たし、焼けるような痛みや疼くような痛みが生じます。また、自律神経系の異常により、発汗の増加または減少、皮膚の損傷、爪の割れ、肥厚、筋萎縮、筋力低下、骨量の減少等が出現します。なお、1型と2型に分かれており、1型は反射性交感神経ジストロフィーと呼ばれ、神経組織以外の組織の損傷が原因のものを指します。一方、2型は、過去にはカウサルギーと呼ばれており、神経組織の損傷に由来する症状を指します。基本的には自律神経の中でも交感神経系が過剰に働いている状況に由来していると言われており、それらに対する対応が必要になると言われています。


表1. Ryersonらの分類

2. 異なる疼痛のメカニズムに対するアプローチを考える

 上記では、Ryersonらが示す4つの分類について示した。ただし、この4つの分類も、基本的には神経学的な原因と末梢運動器由来の原因の2つの主要因に由来している。つまり、臨床においては、HSPが生じている原因が2つのどちらの重みづけが大きいかについて、検討する必要がある。もちろん、双方の原因が重なり、出現している症状もある。しかしながら、より主要な原因を探ることで、適切なアプローチの方法を決定することができる。2つの原因に含まれる主な障害について、表2にまとめる。


表2. HSPの原因となる主な障害について



参照文献

1. Ryerson S, Levit K. The shoulder in hemiplegia. Physical therapy of the shoulder. New York: Churchill Livingstone; 1987. p. 105–31.

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