脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑤ 〜脳卒中後の肩痛のメカニズム、神経学的な原因について(1)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.25
リハデミー編集部
2023.12.25

<本コラムの目標>

・肩関節の障害に関するメカニズムを知る

・神経学的な原因を理解する

・筋力低下と痙縮に起因するHSPについて理解する

・原因に応じたアプローチを考案できる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 脳卒中後の肩痛の原因 〜神経学的な原因、筋力低下・痙縮〜

①筋力低下

 脳卒中由来で生じる、運動障害(麻痺)によって、肩関節を支える筋肉に筋力低下が生じます。これは脳卒中後に頻繁に見られる症状の一つです。また、急性期や回復期に生じた筋力低下は生活期まで残存することも多いと言われています。これらの肩周辺の筋力低下(特に腱板の筋力低下)は、安定性を低下させるとともに、肩関節の他の一部の筋肉の痙縮とも相成り、肩のアライメントを非常に悪化させると言われています。

 また肩関節のアライメントや安定性に筋力低下が悪影響を与える現象として、体幹の筋肉や頭部を支える筋力の低下等も考えられています。特に、最も一般的に知られている現象としては、体幹・頚部の筋力低下によって、常に前屈みの状況となってしまうことです。この状況が続くことで、肩の前方亜脱臼が助長され、腱板のインピンジメントがさらに悪化すると考えられています。また、腱板のインピンジメントによって、関節包も前下方に牽引されることにより機械的な痛みを生じると言われいます。


②痙縮

 運動障害(麻痺)を有した手における筋肉の痙縮は、受動的な筋肉の伸長に対する速度依存性の抵抗、として定義がなされています。上位運動ニューロン症候群の一つであり、痙縮が生じた筋肉とその拮抗筋のバランスに不均衡を生じると考えられています。脳卒中後の肩関節に影響を与える痙縮筋の動きとしては、特に肩の屈曲、内転、内旋を生じる筋肉が影響を受けることが多いと言われています。特に、大胸筋や広背筋の痙縮の影響により生じる、肩の内転・内旋が、肩の伸展、外転、外旋を抑制することが肩関節にとって、大きな問題を引き起こすこととなります。この結果、肩関節のアライメントが極度に崩れることにより、日常生活に必要な関節可動域が確保されず、さらには肩関節が内転・内旋位をとり続けることで、腱板のインピンジメントを助長する可能性があるとされています。

 先行研究によると、痙性麻痺を有する脳卒中後片麻痺を呈した対象者の約85%が麻痺側の手に何らかの痛みを経験し、そのうち弛緩性の麻痺を呈していた対象者は18%であったと報告しています[1]。また、他の研究では、肩関節外旋の関節可動域が減少している対象者では、そうでない対象者と比較して、より高い確率で肩関節の疼痛を経験するが、痙縮によって生じる肩甲下筋の筋緊張以上に対して、神経ブロック等の痙縮抑制治療を実施することにより、疼痛が軽減することも示されています[2]。

 これらの先行研究の結果を踏まえると、痙縮を有した脳卒中後の対象者に対し、肩関節に対するリハビリテーションプログラムを考案する際には、『肩関節の外旋』に関する随意性の拡大、さらには、自動・他動による関節可動域の確保は、疼痛抑制においても非常に重要なことがわかります。

まとめ

 運動障害(麻痺)や痙縮は基本的に、神経学的な原因により生じる現象です。しかしながら、それが生じることで、肩関節のアライメントや安定性が損なわれ、末梢運動器に由来する機械的な原因においても問題を起こすことがわかります。こういった現象を注意深く観察し、どういった関節運動を阻害している、どのような現象に対して、リハビリテーションプログラムを検討するのか、こういった視点を持って、HSPに対応することが重要だと言われています。


参照文献

1. Van Ouwenaller C, Laplace PM, Chantraine A. Painful shoulder in hemiplegia. Arch Phys Med Rehabil 1986;67(1):23–6. 

2. Hecht JS. Subscapular nerve block in the painful hemiplegic shoulder. Arch Phys Med Rehabil 1992;73(11):1036–9.

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