脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑥ 〜脳卒中後の肩痛のメカニズム、神経学的な原因について(2)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.29
リハデミー編集部
2023.12.29

<本コラムの目標>

・肩関節の障害に関するメカニズムを知る

・神経学的な原因を理解する

・末梢神経障害や複合性局所疼痛症候群に起因するHSPについて理解する

・原因に応じたアプローチを考案できる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 脳卒中後の肩痛の原因 〜神経学的な原因、腕神経叢障害や複合性局所疼痛症候群〜

①腕神経叢および末梢神経損傷

 腕神経叢はC5からT1の神経根から派生し、頚部から肩部にかけて存在します。近位部位では頭蓋骨の下部、脊椎から派生し、鎖骨と大胸筋の後方を走行し、手の様々な部位に終着します。

 腕神経叢の損傷は外傷性のものと、非外傷性のものがあります。脳卒中を発症した対象者において、腕神経叢損傷が生じる場合、移乗や体位変換の際に外部から麻痺側の弛緩した腕を引っ張られるなど、麻痺側の手の不適切な管理による牽引が原因であることが多いと言われています[1,2]。

 腕神経叢の障害や末梢神経障害は脳卒中を呈した対象者の中ではあまり生じていない印象があるかもしれません。しかしながら、麻痺を呈した手の不適切な管理により、多くの対象者において、末梢神経に由来する問題が生じていると言われています。針筋電図を用いた先行研究では、脳卒中後に片麻痺を呈した対象者の75%において、棘上筋と三角筋に末梢神経障害の所見が見られたと報告されています[3]。

 HSPにおいて、末梢神経障害が最も見られる神経としては、腋窩神経障害であると言われています。また、腋窩神経障害の原因としては、肩関節亜脱臼における上腕骨頭の下方変位が考えられています。従って、麻痺側の手の下垂に関しては丁寧な管理が必要であることがわかります。


②複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome: CRPS)

 CRPS1型は、以前は反射性交感神経ジストロフィーまたは肩手症候群と呼ばれていました。また、CRPS2型は、以前はカウサルギーと呼ばれていました。1型は神経以外の損傷に応じて生じる症状であり、2型は神経損傷に伴う症状と考えられています。双方ともに、実際の病態とはかけ離れた末梢および中枢における自律神経異常を有するものとされています。

 自律神経異常の症状としては、発汗の増加または減少、皮膚の損傷、爪の割れ、肥厚、筋萎縮、筋力低下、骨量の減少等が出現すると言われています。CRPSは、運動を妨げる痛みや炎症、そしてそれに伴う癒着性被膜炎によって、関節可動域の制限が生じる可能性があると言われています。脳卒中後の対象者において、CRPSの発症率は23%と比較的高確率であることが言われています[4]。

 ただし、脳卒中を呈した対象者に生じるCRPSの機序はまだまだ不明であると考えられています。しかしながら、一部の研究においては、CRPSの発症と痙縮、せん妄、感覚脱失といった症状が関連する可能性が示唆されています[5-7]。また、他の研究においては、CRPSの発症と、肩関節周囲の軟部組織の損傷が関連している可能性も示唆されています[8]。


③中枢性脳卒中後疼痛と感覚過敏

 脳卒中後に生じる感覚障害や半側無視は、固有感覚や痛みの閾値を変化させると言われています。これらによって生じる痛みは、中枢性脳卒中後疼痛(Central Post-Stroke Pain: CPSP)と呼ばれ、肩やその他の部位の疼痛の原因となると考えられています。CPSPは、視床痛症候群とも呼ばれています。これらの症候には、セロトニンやノルエピネフリンを含む神経伝達物質レベルの変化が関与していることが多いと言われています[9]。

まとめ

 腕神経叢および末梢神経障害、そしてCRPSに関する原因を調べてみると、運動障害(麻痺)を呈した手を重力や不良肢位の悪影響から如何に保護するかが、発症率に大きく関連している印象があります。また、脳卒中そのものというよりは、その後の二次的な要素もこれらの発症に大きく関与している可能性があります。これらから、運動障害(麻痺)を呈した手に対する適切な管理が必要であることがわかります。


参照文献

1. Kaplan PE, Meridith J, Taft G, et al. Stroke and brachial plexus injury: a difficult problem. Arch Phys Med Rehabil 1977;58(9):415–8. 

2. Moskowitz E, Porter JI. Peripheral nerve lesions in the upper extremity in hemiplegic patients. N Engl J Med 1963;269(15):776–8.

3. Chino N. Electrophysiological investigation on shoulder subluxation in hemiplegics. Scand J Rehabil Med 1980;13(1):17–21.

4. Van Ouwenaller C, Laplace PM, Chantraine A. Painful shoulder in hemiplegia. Arch Phys Med Rehabil 1986;67(1):23–6.

5. Braus DF, Krauss JK, Strobel J. The shoulder-hand syndrome after stroke: a prospective clinical trial. Ann Neurol 1994;36(5):728–33. 

6. Finch L, Harvey J. Factors associated with shoulder-hand-syndrome in hemiplegia: clinical survey. Physiother Can 1983;35(3):145–8. 

7. Daviet JC, Preux PM, Salle JY, et al. Clinical factors in the prognosis of complex regional pain syndrome type I after stroke: a prospective study. Am J Phys Med Rehabil 2002;81(1):34–9.

8. Chae J. Poststroke complex regional pain syndrome. Top Stroke Rehabil 2010; 17(3):151–629. 

9. Kalichman L, Ratmansky M. Underlying pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain. Not Found In Database 2011;90(9):768–80.

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