脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑦ 〜脳卒中後の肩痛のメカニズム、末梢運動器における機械的な原因について(1)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.01.01
リハデミー編集部
2024.01.01

<本コラムの目標>

・末梢運動器における機械的な原因を理解する

・亜脱臼や腱板損傷に起因するHSPについて理解する

・原因に応じたアプローチを考案できる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 末梢運動器における機械的な原因について

①肩関節亜脱臼

 肩関節亜脱臼とは、安静時に関節窩に対して、上腕骨頭が変位している状況であり、HSPにおける機械的な疼痛の原因の一つであると言われています。亜脱臼は肩甲上腕関節のアライメントが崩壊した状況で、臨床所見としては、上腕骨頭と肩峰の間に隙間が生じる現象です。

亜脱臼の評価としては、ノギス(物差し)、レントゲン写真、超音波検査などを用いて、その隙間の大きさを測定することができます。ただし、臨床的には指の幅(◯横指)で表現するのが一般的と言われています。

 脳卒中を発症した初期の段階では、運動障害(麻痺)を生じた手の筋肉は弛緩することが多いです。そのため、肩甲上腕関節の安定性が損なわれ、上腕骨が重力の影響を受け、下方に牽引されます。これによって、肩の軟部線維が損傷を受けることが多くのケースで見受けられます。

さらに、運動障害(麻痺)を消した手の筋肉が弛緩することで、関節組織(特に関節包)の内部の容積が大きくなると言われています。これは、関節包を外部から締め付けていた腱板の弛緩により生じるものとされており、大きくなった関節包が棘上筋や上腕二頭筋の長頭腱の虚血とそれによって生じる痛みの一因とも仮説が建てられています[1]。

さて、亜脱臼が生じると、上にも記した通り、肩周辺の筋肉が弛緩している時期には、下方への変位が最も一般的です。しかしながら、徐々に痙縮が強くなってくると、痙縮の影響を受ける大胸筋や上腕二頭筋の影響を受け、前方・後方変位と内旋位をとるようになります。これらの変位がインピンジメント等を起こすことなどで、HSPの原因となることがあります。

 さて、では亜脱臼がHSPの原因であるかどうかを検討した臨床試験の内容を紹介します。Paciら[1]は、脳卒中後片麻痺を呈した対象者107人に対して、ケースコントロール研究を用い、肩関節の亜脱臼がある対象者と、ない対象者の間で、HSPの有無について調査を行なっています。その結果、肩関節の亜脱臼がある対象者は、入院時、退院時、退院から30〜40日の追跡調査時において、亜脱臼がない対象者に比べ、有意なHSPを認めたと報告しています。

 この研究の結果を見ると、亜脱臼がHSPの原因の一つであると確信を持ってしまうかもしれません。ただし、他の研究を確認してみると、違った結果が示されています。例えば、MxKennaら[2]は、他の研究では亜脱臼のある対象者も、亜脱臼のない対象者もHSPを発症する確率は同時であると報告しています。このように亜脱臼そのものがHSPの原因なのか、それとも亜脱臼後の不適切な管理が問題で、二次的な障害が生じ、それがHSPの原因になるのかは、未だに明らかでない部分が多いと考えられています。

 ただし、亜脱臼がHSPの発症に何らかの関与をしていることはエビデンスとしても示されており、この症候に対する適切なポジショニング、サポート、上肢を下垂しない状況での移乗・移動に対するアプローチは実施されるべきだと考えられています。


参照文献

1. Paci M, Nannetti L, Taiti P, et al. Shoulder subluxation after stroke: relationships with pain and motor recovery. Physiother Res Int 2007;12(2):95–104.

2. McKenna LB. Hemiplegic shoulder pain: defining the problem and its management. Disabil Rehabil 2001;23(16):698–705.

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