脳卒中後に生じる複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome: CRPS)に対するリハビリテーションについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.03.04
リハデミー編集部
2024.03.04

<本コラムの目的>

・CRPSに対して実施されるリハビリテーションの実際を知る

1. CRPSに対する治療

 CRPSの病態やその機序はとても複雑であり、まだ明確に解明されていない部分が多いと言われています。また、多くの場合で、症状が一定せず、変わりやすいです。ですから、対象者の中には、症状が悪化し、治療に難渋することも少なくないと言われています。したがって、CRPSを早期発見し、医学的治療、リハビリテーション、心理・行動療法といった、複合的かつ集中的なアプローチを行うことが推奨されています。また、CRPSは原因が個人によって異なるため、治療は個々の発症期間や重症度、心理的な状況も鑑みて実施する必要があると述べられています。ここでは、リハビリテーションと心理・行動療法について、解説を行なっていこうと思います。


1)リハビリテーションについて

 CRPSの一番の大敵は『不動』と言われています[1]。激しい痛みのために、患部を動かさない、もしくは活動そのものが低下してしまいます。対象者の痛みの訴えを医療者側が受け入れていると、痛み自体はさらに大きくなる可能性があります。どのような環境下なら、対象者の手の痛みが和らぐのか、どういった運動であれば、対象者が自発的に動かそうとしてくれるのか、それは多動的なのか?自動的なのか?そういった環境をひとつづつ評価し、対象者の方が少しでも動かすことを許容してくれる条件を探すことが求められます。これらの基本的な考え方に加えて、いくつかのアプローチがCRPSに対して試され、検証も行われています。その結果について、以下に解説していきます。

 ミラーセラピーは脳卒中後の対象者に広く用いられるリハビリテーション技術であり、CRPSの軽減、および上肢の機能改善にも効果があると言われています[2]。先行研究によると、ミラーセラピーを実施することで、頭頂葉の皮質にある感覚に関わるホムンクルスの皮質の再構築により、疼痛が軽減する可能性が示唆されています[3]。ランダム化比較試験においても、通常のアプローチに比べ、CRPS1型の対象者に対し、有意に疼痛を軽減することが示されています[4]。

 次に、交代浴について、述べていきます。交代浴、CRPSに対する伝統的なアプローチ方法で、リハビリテーションに関わるCRPSに対するアプローチとして、長い間示されてきました。この方法は、CRPSを患った手を、冷たい水と温かいお湯に交互につけるといった方法です。これらを繰り返すことで、血管の収縮と拡張が交互に起こり、末梢の血管においてポンプ作用が生じ、浮腫や炎症の軽減、そして、血流改善による関節可動域の改善が期待されると示されている[5]。ただし、理論的には確立されているものの、確固たる検証結果はなく、対象者に実施してみて、適応を探る必要があるとされています。

 最後に鍼治療ですが、CRPSに対する大規模なシステマティックレビューとメタアナリシス*によって、疼痛の軽減、運動機能と日常生活活動の改善に効果的であるといった知見が紹介されています[6]。ただし、研究間の結果の差が激しく、エビデンスのレベルは低いとされています。また、日本の療法士免許では、この手法は使うことが難しく、その他のアプローチを考えた方が現実的かとも思われます。


*システマティックレビューとメタアナリシスとは?

 結果の信頼性が高い研究方法と分析方法。明確に作られたクエスチョンに対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を同定、選択、評価を行なうことで作成するレビューのとこを指します。メタ解析とは、過去に行われた複数の臨床試験の結果を、統計学の手法を用いて統合して、全体としてどのような傾向が見られるかを解析する方法です。


参照文献

1. Harden, R. N., Oaklander, A. L., Burton, A. W., Perez, R. S., Richardson, K., Swan, M., Barthel, J., Costa, B., Graciosa, J. R., & Bruehl, S. (2013). Complex regional pain syndrome: Practical diagnostic and treatment guidelines, 4th edition. Pain Medicine, 14 (2), 180-229. 

2. Yang, Y., Zhao, Q., Zhang, Y., Wu, Q., Jiang, X., & Cheng, G. (2018). Effect of mirror therapy on recovery of stroke survivors: A systematic review and network meta-analysis. Neuroscience, 390, 318-336. 

3. Karmarkar, A., & Lieberman, I. (2006). Mirror box therapy for complex regional pain syndrome. Anaesthesia, 61 (4), 412-413. 

4. Cacchio, A., De Blasis, E., De Blasis, V., Santilli, V., & Spacca, G. (2009). Mirror therapy in complex regional pain syndrome type of the upper limb in stroke patients. Neurorehabilitation and Neural Repair, 23 (8), 792-799.

5. Bieuzen, F., Bleakley, C. M., & Costello, J. T. (2013). Contrast water therapy and exercise induced muscle damage: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 8 (4), e62356. 

6. Liu, S., Zhang, C. S., Cai, Y., Guo, X., Zhang, A. L., Xue, C. C., & Lu, C. (2019). Acupuncture for post-stroke shoulder-hand syndrome: A systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neurology, 10, 433. 

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